第687話 死霊石
「あっ!?こ、壊れちゃった……どうしよう」
「いえ、レアさんのせいじゃないですよ……いや、レアさんが壊したのは間違いないですけど」
「どっち!?」
「死霊石は封じられている死霊が浄化、あるいは消滅すると効果を失って砕けるんです。普通の魔石だって魔力を消耗すると硝子のように透明になって砕けやすくなるでしょう?」
「なるほど……そういう点ではこの死霊石とやらも魔石の一種である事に変わりはないのか」
リルは砕けた死霊石を拾い上げると、確かに魔力を失った影響で硝子の破片のように変化していた。少し力を込めるだけで砕けてしまい、もう使い物にはならない。
ここで気になるのはリバイアサンの死骸に憑依していた「カイオウ」が死霊石に封じられていた事であり、カイオウはかつて勇者と人魚族に敗れたという話だが、どうして死霊石に魂が封じられていたのか謎である。
「どうしてカイオウは死霊石に封じ込められていたんだろう……確か、死体は処分したんですよね?」
「え、ええ……確かに伝承ではカイオウの肉体は焼却し、灰は海底へと沈めたと伝わっています」
「それだけすればいくら死霊使いでも復活させる事は出来ないはずですけど……こうして死霊石にカイオウの魂が封じられていた、という事は死体を処分される前に何者かが死霊石にカイオウの魂を封じ込めたと考えるしかありません」
「その話が事実だとすれば敵はずっと前からカイオウの魂を死霊石に封じ込め、今の時代に保管していたというのか!?」
「となると……やはり、敵の正体は魔王軍ですね!!」
カイオウを封じ込めたのが何者かは不明だが、少なくとも数百年は生きている存在であり、こうしてレア達が訪れるのを見越してリバイアサンに憑依させて待ち伏せさせていた。その事から死霊石を埋め込んだ敵の正体は魔王軍である事は確定していた。
気になる点は剣の魔王を復活させた存在と同一人物かどうかだが、リバイアサンのような竜種の死骸に死霊を憑依させるなど並の死霊使いでは真似できず、恐らくは始祖の魔王を雷龍に封じ込めた存在と同一人物である可能性は高い。
「それにしてもまさかリバイアサンに死霊を憑依させて待ち伏せさせるとは……まるで私達の行動が先読みされていたかのようですね」
「……もしかしたら、魔王軍に情報を送る内通者がいるのかもしれないな」
「そんな……」
「申し訳ございません、勇者様……力になると言っておきながら、大変な迷惑をお掛けして……」
「まあ、仕方ないですよ。気にしないでください」
セリーヌと人魚族の護衛はレアに対して謝罪し、自分達が力になるべき存在にまさか逆に救われる事にいたたまれない気持ちを抱く。これからは勇者であるレアのために尽くす事を誓う。
「勇者様のためならば我々人魚族はどんな事でもします。その証として……どうか、我等の秘宝を受け取ってください」
「え?」
「海底王国へ戻りましょう。そこには勇者様に与えたい物があります」
セリーヌの言葉にレアは呆気に取られるが、彼女は一先ずは海底王国へ戻るように促す――
――海底王国へ帰還すると、セリーヌは城の最上階に存在する部屋へと案内し、そこに封印されている武器をレア達に見せつける。城の最上階に封じられていたのはかつてリバイアサンと相打ちになった勇者の聖剣であり、それを見たレアは驚きの声を上げる。
「これは……もしかしてデュランダル?」
「ええ、その通りです。この聖剣デュランダルこそが我が国を守ってくれた勇者様が所持していた聖剣です」
「なるほど、つまりはオリジナルのデュランダルという事ですか」
城の最上階の部屋には鎖で壁際に封じられた聖剣デュランダルが飾られていた。それを見たレアはすぐに自分が所持しているデュランダルに視線を向け、瓜二つの外見をしている事に気付く。
オリジナルのデュランダルとレアのデュランダルは性能面は全く同じなはずだが、人魚族が封じていたデュランダルの方は色を失っているというか、どことなく色合いが違っていた。
「これが本物の聖剣デュランダルですか……」
「不思議だな、レアの持っている物と比べると、なんというかその……」
「レアさんのと比べて色が薄い……というか、力を失っているように感じますね」
「ええ、皆さんのおっしゃる通りです……正統な所有者を失った聖剣は力を失い、次の所有者が現れるまでは能力も発揮できないのです」
セリーヌによると現在の聖剣デュランダルは完全に力を失われ、先代の所有者であった勇者が死亡してからこの聖剣は変わってしまった。勇者が存命の時は神々しい雰囲気を纏っていたが、今現在で只の金属の塊のように変化してしまったという。
今の時代までデュランダルは次の所有者が決まっておらず、力を取り戻す様子はない。だが、もしかしたらこの時代に召喚された勇者であるレアならばデュランダルに選ばれるのではないか、そう考えたセリーヌはレアをこの場所まで連れてきたのだ。
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