第686話 リバイアサンの正体

「い、今の光は……!?」

「まさか、勇者様が……!?」

「……どうやらやったようですね」

「さ、流石はレア様……御一人であの化物を倒すなんて、凄すぎます」

「やれやれ、うちの勇者様は本当に頼りになるね」



十字の光がリバイアサンの肉体を吹き飛ばした光景はセリーヌ達も確認し、すぐに海溝の方からレアが姿を現す。この時にレアは3本の聖剣を所持しており、それを見たセリーヌは戸惑いの声を上げる。



「ゆ、勇者様……今のはいったい、何をされたのですか?」

「えっと……詳しく説明すると長くなるから、まずはあいつの止めを刺してからでいい?」

「え?まだ生きてるんですかあれ?」

「魔力を僅かに感じるから、まだ完全には倒していないよ」



リバイアサンはレアの攻撃で吹き飛ばされた際に激しく損傷を負い、海溝の傍で倒れ込んでいた。だが、全身に聖属性の魔法攻撃を受けた事で体内に宿っていた闇属性の魔力は浄化され、もう顔面の部分に僅かに闇属性の魔力が宿っていた。



『アアッ……ユウ、シャ……ユウシャアアッ……!!』

「こんな状態になってもまだそんな事を……」

「余程、勇者に恨みを持つ存在のようですね……」

「事切れる前に答えなさい!!貴方は何者ですか!?素直に答えれば楽に逝かせましょう!!」



ティナが大剣を構えて怒鳴りつけると、リバイアサンは憎々し気な表情を浮かべてレアを睨みつけ、やがてゆっくりと口を開く。



『カイ、オウ……』

「カイオウ……!?それはかつて、リバイアサンと共に葬られたあの海の魔王の名前です!!」

「カイオウ……海の王、という意味ですか」



カイオウと名乗るリバイアサンにセリーヌは信じられない表情を浮かべ、かつて海底王国を侵略し、勇者と人魚族によって滅ぼされたリバイアサン、その主の名前がカイオウである事を告げる。


どうやらリバイアサンに憑依していたのは海の魔王の死霊のようだが、ここで謎が発生する。それは海の魔王の死体は完全に滅したとセリーヌは告げていたが、どうして死霊として蘇ったかである。いくら死霊使いと言えども死体が存在しなければ死霊を呼び起こす事は出来ない。



「海の魔王の死体は処分したんじゃないんですか?」

「それは間違いありません!!海の魔王の死体は確実に焼却し、二度と蘇らないように処分したはずです!!」

「だが、現実にこうして蘇っている……これはどういう事だ?」

「答えろ、お前を蘇らせたのは誰だ!?」

『ウウッ……アアッ……』



リバイアサンに対してレアは怒鳴りつけると、もう意識も混濁しているのかリバイアサンは尋ねられた言葉に反論する様子もなく、弱々しい声音で返す。



『ワレヲ、ヨミガエラセタノハ……ワカラナイ、オボエテイナイ……ダガ、クラヤミノナカデ、タシカニイワレタ……ユウシャヲコロセ、ト……』

「勇者を殺せ……という事は、やはり敵は魔王軍ですか」

「剣の魔王を復活させた相手か!!だが、まさかこんな海底にまで来るとは……」

「信じられません……この場所は到底、人間が辿り着ける場所ではありません。いったい、どうやって……まさか!?」



セリーヌはある事を思い出し、彼女は涙の指輪を見つめる。この指輪は人魚族の秘宝ではあるが、青髭という海賊に盗まれた時期がある。青髭を尋問した際、彼はとある相手から涙の指輪を受け取ったと言っていた。その人物は間違いなく、この海底王国に侵入していた。


もしかしたら涙の指輪を回収する際に海溝に沈んでいるリバイアサンの死骸に死霊を封じ込められた可能性もあり、勇者がこの海底王国に訪れる事を予測してリバイアサンを待ち構えさせていたのかもしれない。



「答えない!!貴方は復活させたのは何者ですか!!」

『…………』

「……駄目だ、もう魔力が残っていない」



リバイアサンを復活させた存在を問い質そうとするが、答える前にリバイアサンに残っていた残りの魔力も浄化される。この際にレアは魔力感知を発動させ、完全に魔力が切れる前にリバイアサンの額の方から魔力が発生している事に気付き、額を覗き込む。



「ねえ、こいつの額に何かが嵌まってるように見えるけど……何だろう、これ?」

「どれどれ……うわっ!?これはもしかして死霊石じゃないですか!?」

「死霊石?」

「死霊使いが扱う特殊な魔石です。この魔石に霊魂を憑依させ、それを死骸に埋め込む事で死霊人形を作り出すと言われています」

「という事はこの死霊石にカイオウの霊魂が……?」

「なるほど、そういう事でしたか……死骸から死霊を復活させたのではなく、この死霊石を利用してリバイアサンの死骸にカイオウの霊魂を憑依させたんですね。でも、もうこの死霊石は使えませんね」



完全に霊魂が浄化された影響か、死霊石からはもう魔力は感じられず、試しに触れようとすると勝手に罅割れて砕けてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る