第683話 アルティメット・ブレイブ号

「あれ?さっきから魚が見えなくなったな……どうしたんだろう?」

「そういえばセリーヌ女王が言ってましたね、海龍リバイアサンの死骸の周囲には魚さえも寄り付かないとか……死んでも尚、他の生物から恐れられているのかもしれません」

「そうなんだ……死んでも怖がられるなんて凄い化物なんだろうな」



レアは海龍がどんな存在なのか気にかかり、同時に海龍と共に沈んだという勇者の船が気にかかる。既に数百年も前に沈んだ船であるのならばあまり期待は出来ない。だが、仮にも勇者が作り出した船であるのならば確認しないわけにはいかない。



「どれくらいで到着するのかな……」

「セリーヌ女王の話によるとそれほど遠くはないようですけど……うわ、何ですか!?」

「え、どうしたの?」

「いや、一瞬だけ窓の外を何かが横切ったような気がしたんですが……」

「何だと?さっき、魚が見えないと言ったばかりじゃないか」



リリスの言葉に全員が窓を覗き込むが、そこには何も見えず、特に不審な点はない。話している間にもイカ車は海溝の底へ向けて沈んでいき、やがてクラーケンの声が響く。



『ジュラララッ……』

「わっ……急にどうしたんでしょうか?」

「サンがいれば通訳して貰えたのに……」

「いや、イカ語(?)はサンでも分からないだろう……多分」

「皆、あそこを見てくれ……何かが光っている」



クラーケンは触手を動かしてレア達が乗り込んでいる乗り物を移動させると、レア達の視界にヒカルコケに覆われた木造船が写し出された。木造船は海溝の間に挟まれる形で沈んでおり、それを見たレア達は勇者の船だと理解した。


数百年前に作り出されたとは思えない程に原型は保っており、船の方も破損個所は少ない。全体にヒカルコケが生えており、青色の光に覆われているので船の様子を伺う事が出来た。



「なるほど、あれが勇者の船……いえ、アルティメット・ブレイブ号ですか」

「その名前、長いからアルブレ号と呼んでいい?」

「アルブレ号……一気に威厳が無くなりましたね。いや、アルティメット・ブレイブ号の時点であれですけど……」

「私は格好いい名前だと思いますけど……」

『えっ!?』



ティナの言葉にレアとリリスは驚いた声を上げるが、ここでレア達を乗せたイカ車を操作していたクラーケンが動きを止め、勇者の船に近付くのを止める。まるで何かを警戒するように忙しなく頭を動かし、その様子を見ていたレア達は戸惑う。



「あれ?どうしたんだろう、急に落ち着きがなくなったね」

「餌でもさがしてるんでしょうか?」

「いや、様子がおかしい……何かに怯えているように見えるが」

『皆様、ご無事ですか!?』

「うわっ!?びっくりした!?」



窓の外から声を掛けられたレアは驚いて振り返ると、そこには焦った表情のセリーヌが窓に顔面を押し当て、折角の美しい顔が凄い事になっていた。彼女の行動にレア達は戸惑うが、セリーヌはすぐにこの場から離れる事を告げる。



『この場所をすぐに離れます!!しっかりと乗り物から落ちないようにしがみついて下さい!!』

「ど、どういう意味ですか?何か問題があったんですか?」

「消えてしまったのです!!海龍の……死骸が!!」

「何だって!?」



セリーヌの言葉に全員が驚き、ここでレア達は思い出す。それは勇者の船は海龍リバイアサンの死骸と共に沈んだという話だが、その肝心の海流の死骸の姿が見えない。


船が見つかった場所は海溝の深い場所に存在し、ここから先に底の方は狭くなっていき、事前に聞いていた海龍の巨体が隠れられる場所ではない。セリーヌの記憶では海龍は勇者の船に寄り添う形で倒れていたはずだが、その海龍の死骸は何時の間にか消えてなくなってしまっていた。



『海龍の死骸が消えた以上、この場は危険です!!すぐにここから離れます!!』

「ちょ、ちょっと待ってください!!まだ船が……」

『クラーケンが先ほどから警戒しています!!恐らく、危険な存在が近くにいるはずです!!すぐに離れますよ!!』

「くっ……仕方ありませんね!!」



勇者の船を調査する前に乗り物を掴んだクラーケンをセリーヌと他の人魚が誘導し、急いでこの場を離れようとした。この時にレアは窓の外に視線を向け、先ほどリリスが見たという「黒色の影」を探す。



「リリス、さっき何か見かけたとか言ってたよね!?何処で見たの!?」

「えっと……あそこら辺です!!あそこで何かを見かけて……」

「あれか……な、何だ!?」



リリスの指差した方向にレア達は視線を向けると、そこには海溝の岩壁だと思われていた部分をよくよく観察すると、それは岩壁ではなくて青色の蛇の鱗のような物だと判明する。そして巨大な眼が突如として現れると、レア達に視線を向けた。

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