第681話 海の魔王と勇者の伝説

セリーヌの案内の元、レノ達は城の中に案内されるとまずはセリーヌから話を聞く。この海底王国に存在する勇者の船は元々はかつて存在した海の魔王と呼ばれる存在を倒すため、作り出されたという。



「遥か昔、まだ私が女王の座に就く前の時代……この海には海の魔王と呼ばれる存在がいました」

「海の魔王……聞いた事もありませんね」

「そうなの?」



わりと博識のリリスでさえも海の魔王に関しては知らないらしく、彼女は不思議そうに首を傾げる。その反応に対してセリーヌは頷き、海の魔王の存在を知る者は地上の世界では極少数だという。



「海の魔王の存在を認知していたのは当時の勇者と人魚族だけです。地上の世界に伝わっていないのも無理はありません」

「でも、仮にも魔王と呼ばれる存在が知られていないなんて……」

「海の魔王の被害を受けていたのは海底に暮らす者だけで地上の人間には手を出しませんでした。最も人魚族が絶滅した場合、海の魔王は地上も征服するつもりだったようですが……」

「興味深い話だな、もう少し詳しく教えて貰えますか?」



セリーヌから話を聞いたリルは興味を抱き、魔王の称号を持つ存在ならば知っておいても損はなく、もしかしたら何らかの役立つ情報を得られるかもしれない。セリーヌも頷き、彼女は詳しく教えてくれた――






――今から数百年ほど前、この海底王国に海竜の成体である「海龍」という竜種を操り、国を乗っ取ろうとした存在がいた。海龍を操っていたのは始祖の魔王の配下であり、その人物は「海の魔王」を名乗った。


海の魔王は海龍の圧倒的な力を利用して国を破壊し、人魚族に降伏を迫った。この要求に対して人魚族は従わざるを得ず、表向きは魔王軍に従う。その後、海底王国を掌握した海の魔王は今度は地上の征服を企む。


だが、この時に内密に海底王国の王族は難を逃れ、地上の者に助けを求めようとした。その助けに応じたのが当時召喚されていた勇者であり、勇者は海底王国を救うために動き出す。


敵が潜むのは海底であるため、地上のように思う存分に戦う事は出来ない。そのために勇者は地上で船を作り出し、その船の製作に人魚族も協力し、まずは海底王国へ向かうための手段を確保した。


海の魔王が準備を整え、地上の征服に移る前に船は完成し、勇者を乗せた船は海底へ向けて出発した。そして海底王国を支配してた海の魔王と海龍は聖剣デュランダルを手にした勇者により打ち破られ、地上と海底の平和は守られた。




しかし、この時に勇者は海の魔王と海龍を倒した後に命を落とし、彼が所持してた聖剣デュランダルは海底王国にて保管され、後の時代に訪れるであろう勇者のために保管される事になった。勇者の死後、人魚族は彼への大恩を忘れぬため、勇者が現れた際は力になる事を誓う――




「これが私達の国に伝わる勇者の伝承です。この海底王国が現在も残っているのは全ては勇者様が命を賭けてこの国を救ったお陰……ですので我々は勇者様のためならば御力を貸す事に躊躇しません」

「なるほど、そういう事情があったんですね」

「海の魔王か……話を聞く限りでは海龍を操れるほどの存在だったようだが、その海の魔王は復活される可能性はあるのか?」

「それはあり得ません。海の魔王の亡骸は討伐後、我々の力で処分しました。現在は跡形も残っていません。そもそも魔王軍といえど、そう簡単にはこの海底王国に辿り着く事はありません」

「まあ、それはそうでしょうね」



海底王国は文字通りに海底に存在し、地上の生物は簡単に侵入できる場所ではない。レア達がここにいられるのは人魚族の力を借りているからであり、外部からの侵入はほぼ不可能だった。


そもそも亡骸の方も完全に処分されていればいかに死霊使いと言えどもどうしようもなく、海の魔王が復活する可能性はない。だが、気になる点があるとすれば勇者の亡き後に彼が海底王国に辿り着くまでに使用した船がどうなったかである。



「それで肝心の勇者さんが作った船はどうなったんですか?この城に保管されているんですか?」

「いいえ、勇者様の船は海龍リバイアサンとの戦闘の際、リバイアサンの死骸と共に封印しました」

「リバイアサン?海龍の名前ですか?」

「ええ、我々の間ではそう呼ばれています。リバイアサンと船はこの場所よりも更に海の底、我々でさえも滅多に近づけない場所に存在します」

「なんだか怖いですね……でも、行くしかなさそうですね」

「ちょっと待って、名前さえ分かればどうにか出来ると思うけど……」



ここでレアは海底に眠っている勇者の船の名前さえ知る事が出来れば文字変換の能力でどうにか出来るのではないかと思ったが、セリーヌは船の名前を明かす。

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