第679話 手段は選べない

「それに過去に魔剣を扱っていた勇者様も存在します」

「そ、それは本当かい?」

「ええ、シュン様ならば魔剣であろうと正しく使うはずです。それに……魔剣さえあればシュン様はきっとあの噂の解析の勇者様にも負けない強さを手に入れるはずです!!」

「っ……!?」



解析の勇者という言葉にシュンは反応し、その反応を見てイレアは一瞬だけ口元に笑みを浮かべるが、すぐに気を取り直したようにシュンの両肩を掴む。



「シュン様は誰よりも優しく、そしてお強い勇者様だと私は信じております。シュン様ならば魔剣であろうと正しく扱えるはずです」

「……そう、思ってくれるのかい?」

「ええ、だって……シュン様は私の憧れの人ですから」

「イレア……」



シュンはイレアの言葉に救われたような気分になり、今までは彼は影でレアと比べられる事に嫌に感じていた。しかし、彼女だけはシュンの事を認めてくれている。そう考えたシュンはイレアに特別な感情を抱いても仕方がない。


魔剣の事が記された書物にシュンは視線を向け、彼女の言う通りにいくら魔剣といえど、使い手が道を誤らなければ問題はないと考え直す。そして彼は書物を開き、読み明かす。




――しかし、この時にイレアはシュンにある事を隠していた。それは勇者の中に魔剣を扱った者がいたという話だが、それは嘘ではない。だが、その勇者は後に歴史から抹消される程の犯罪を犯した事は伏せていた。




その勇者は魔剣の力に魅入られ、敵味方関係なく殺戮を繰り返した。その結果、勇者とは人類の希望でなければならないと考えた当時の皇帝は彼を他の勇者に撃たせた後、歴史に残さないように勇者は魔剣を手にする前に死亡した事にさせ、彼の悪行は歴史書には残されていない。


魔剣が聖剣と大きく異なる点、それは大半の魔剣は人の「悪意」から作り出された代物である。魔剣の製作には悪意ある人間が関わっており、その影響なのか魔剣を手にした者の殆どは悪道に堕ちている。


熱心に魔剣を読み明かすシュンに対してイレアは後ろから笑みを浮かべ、こうも操りやすい「人形」を手に入れた事に彼女は微笑む。



(可愛い私のお人形さん……利用しつくした後は私のペットとして可愛がってあげるわ)



シュンに対してイレアは舌なめずりを行い、あの勇者を自分が操っているという感覚に酔いしれる。そんな彼女の態度に気付かず、シュンは魔剣の事を調べてレアに対抗する力を身に付けようとしていた。



(僕は勇者なんだ……なら、彼に出来て僕に出来ない事はないんだ!!)



シュンがレアに抱く対抗心は暴走の域に入り、彼はどんな手を使ってもレアを追い越す事をだけを考える。その考えが後に彼の人生を大きく狂わせる事になるのはこの時は誰も予想できなかった――





※今回の話は短めですが、切りが良いのでここまでにしておきます。

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