第678話 シュンの考え

――アリシアの指示の元、シゲルとヒナが古王迷宮にて訓練を行う中、シュンの方は帝城の書庫に入りびたり、彼は帝国の歴史書を読み漁っていた。今更ながらに彼はこの世界の歴史を学び始めた理由、それは帝国にこれまで召喚された勇者を調べるためである。


この世界において勇者召喚を行ったのはヒトノ帝国とケモノ王国だけであり、前者の方が圧倒的に勇者を召喚した回数が多い。それは逆に言えば帝国が幾度も危機を迎えた事を意味するが、帝国が世界一の大国として発展できたのは勇者の存在が大きい。


これまでに召喚された勇者の歴史を調べ上げ、シュンは自分が必要とする情報を集める。現在の彼が最も欲しているのは勇者が身に付けていた「装備品」であり、その中には聖剣の類も含まれている。



(そうだ……僕に無くてレア君にある物、それは彼の持っている聖剣だ……!!)



シュンはレアが複数の聖剣を所持している事は耳にしており、帝国の方でも解析の勇者は様々な聖剣を所有しているという噂が流れている。本来、聖剣はそんな簡単に手に入る代物ではない。だが、レアはどのような手段を用いたのか複数の聖剣を所有している所をシュンは目撃していた。



(聖剣は所有者を強化する能力を持っている……という事は、僕が彼に勝てないのは聖剣を持っていないだけだ。決して、レア君に僕が劣っているわけじゃない)



先日の敗北の一件からシュンはレアに対して強い劣等感を抱いていたが、それを払拭するために彼は考え、自分とレアの違いを探す。そして彼が至った結論はシュンは聖剣を持ち合わせておらず、一方でレアは聖剣を所有している。だから自分はレアに勝てなかったのだと思い込む。



(僕は剣士の勇者だ、ならそれにふさわしい武器を探さないと……)



勇者の歴史を読み漁り、聖剣がどの時期にどんな理由で誕生したのか、そして現在は何処で保管されているのかを彼は調べ上げた。しかし、残念な事に殆どの聖剣は現在は行方知れずであり、世界一の大国である帝国でさえも保有している聖剣は「フラガラッハ」のみである。


聖剣フラガラッハは既にアリシアは主人と認めており、彼女から無理やりに聖剣を奪う事は出来ない。しかし、他の聖剣の情報の手がかりは殆ど残っておらず、シュンは諦めかけた時、彼の元に女性の使用人が訪れた。



「シュン様、こちらをどうぞ」

「あ、ああ……イレアか、ありがとう」

「うふふ……そんなに熱心に何を調べているのですか?」



イレアと呼ばれた女性の使用人はシュンに甘い果実を絞り出した飲み物を差し出すと、微笑みかける。彼女の笑顔を見たシュンは照れ臭そうに頬を掻き、書物を置いて休憩する事にした。



「いや、ちょっとね……この世界の歴史を学びたいと思ってね」

「あら、そうでしたか。私はてっきり、かつての勇者様の事を調べているのかと思いましたわ」

「え、どうしてそう思うんだい?」

「何となく、ですね」

「……君には敵わないな」



自分の考えを読み取られた事にシュンは苦笑いを浮かべ、何故か彼女に隠し事をしても見抜かれるような気分に陥る。イレアは椅子に座ったシュンの肩を掴み、落ち着かせるように囁く。



「シュン様、本当は何をお探しだったのですか?」

「……かつて召喚された勇者の中には僕と同じように剣士の称号を持つ人もいたはずだ」

「ええ、確かに剣士の勇者は勇者召喚の度に必ず召喚されたと聞いています」

「そうか……調べた限り、その勇者達は必ず何らかの聖剣を装備していたんだ。だけど、僕の手元には聖剣はない」



シュンは過去に自分と同じ称号の勇者がどんな武器を扱っていたのかを調べた。その結果、全員がレアのように何らかの聖剣の所有者だと判明し、彼は頭を悩ませる。


聖剣が欲しいが現在の帝国が所有しているのはアリシアのフラガラッハのみ、残念ながらシュンが手にする聖剣はない。だが、そんな落ち込む彼にイレアは思いもよらぬ言葉を囁く。



「聖剣は無理だとしても……魔剣ならば手に入るかもしれませんわ」

「えっ……魔剣?」

「実は勇者の中には聖剣に匹敵する力を持つ魔剣を手にした存在がいます。しかし、彼の名前は歴史に葬られてしまった……その話を御存じですか?」

「それは……本当なのかい?」



イレアは書庫の本棚の中から黒色の背表紙の本を取り出し、それをシュンに差し出す。シュンは戸惑いながらも本の題名を見ると、そこには「魔剣書」と記されていた。



「これは……」

「それは魔剣に関する知識が記された書物です。聖剣に対抗するために作り出された魔剣も記されているはずです」

「魔剣……だが、僕は勇者だ。魔剣なんて怪しい物は……」

「シュン様、ここでは気を付けて欲しいのはどんな武器であろうと使い手によって価値観が変わるという事です。伝説の聖剣だって兵器として利用されれば、それは立派な殺人兵器です」

「それ、は……」



シュンはイレアの言葉に否定は出来ず、確かに調べた限り、伝説の聖剣の中には他国との戦に使用されたという記録も残っていた。どんなに優れた武器だとしても、使い手によって大きく価値が変わる。

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