第677話 三勇者の育成
――剣の魔王が復活を果たしてから数日後、魔王なる存在が復活を果たしたかもしれないという報告はヒトノ帝国にも届いた。転移台を利用してリルが直々に参り、ついでに海底王国から派遣された使者も王都へと赴き、魔王の脅威を伝える。
この報告を受けた帝国は剣の魔王が復活を果たしたかもしれないという報告に半信半疑ではあったが、二つの国が注意を促してきた事から警戒せずにはいられない。そのため、魔王に対抗するために帝国は3人の勇者の育成に励む。
「うおらぁっ!!こんちくしょうがぁっ!!」
「シゲル様!!無理に前に出ないでください!!ヒナ様の魔法の準備が完了するまでは守護に集中して下さい!!」
「うおっと、そうだったな……悪い悪い」
「よ〜し、もう少しだよ!!」
『ゴォオオオッ!!』
帝都に存在する古王迷宮の最下層にてアリシア、シゲル、ヒナの3人は連日のように赴き、ロックゴーレムを相手に戦い続ける。彼等の目的はロックゴーレムの核の回収と、レベルを上げるために3人は協力して戦う。
『ゴアアッ!!』
「行かせるかよ、受け流しっ!!」
『ゴオッ!?』
拳を振りかざしてきたロックゴーレムに対してシゲルは空手の回し受けのように相手の攻撃を逸らすと、それを見たアリシアは感心する。
「防御用の戦技……いつの間に覚えたのですか?」
「へへっ、俺だって成長してんだよ!!この前の戦いでは嫌というほど攻撃だけだとどうしようもない事は分かったからな!!」
「その通りです、ね!!」
『ゴアアッ!?』
シゲルが攻撃を受け流したロックゴーレムに対してアリシアはフラガラッハを振りかざし、首を切断する。ロックゴーレムは核を破壊するか、あるいは回収しない限りは倒す事は出来ない。しかし、二人が守護している間に魔法の発動の準備を整えたヒナが動く。
「二人とも準備は出来たよ!!広域魔法、スコール!!」
『ゴォオオオッ!?』
「やったぜ!!」
「ふうっ……どうにかなりましたね」
ヒナが杖を振りかざすと、杖先から水色の光が放たれると、天井付近に雲が広がって雨が降り注ぐ。その結果、雨に打たれたロックゴーレムの肉体は崩れ去り、泥と化してしまう。
ゴーレム系統の魔物は水が弱点という共通点が存在し、彼等は水を浴びると肉体が維持できずに崩壊してしまう。これによって肉体が崩れたロックゴーレムの核が剥き出しとなり、それを確認したアリシアは核に回収を行う。
「これで十分な量の核は手に入りました。二人とも、ありがとうございます」
「いいって事よ……まあ、たまにはこうして一緒に戦うのも悪くはないな」
「そうだね、皆で一緒に戦った方が楽しいよ!!」
「楽しい、ですか……」
アリシアはモモの言葉を聞いて苦笑いを浮かべ、彼女はまで戦闘の恐ろしさをよく理解していない節があった。それはモモが魔術師という職業柄、一番守られる立場であるが故に危険な目に遭う事が少なかったことを意味する。
若干の不安を覚えながらもアリシアはモモとシゲルが確実に成長していると判断した。特にシゲルの方はまだ危機管理能力が甘い部分はあるが、人の指示をちゃんと聞いてくれるようになったのは先日の模擬戦の敗北が原因だと考えられた。
(先日のケモノ王国とヒトノ帝国との戦闘、シゲル様も思う所があったのでしょうね……)
両国の騎士団の模擬戦ではシゲルとシュンは結局はレアが出てくる前に部隊が敗北してしまい、実質的にレアがいなくともケモノ王国の部隊に敗北した事を意味する。シュンとシゲルは直接的に負けたわけではないが、それでもレアが出る前に部隊が敗れた責任は彼等にもある。
シゲルは敗北を乗り越えて他の人間との連携の大切さを思い知り、人としても着実に成長していた。一方でシュンの方は敗北を乗り越えたとは言えない状況であり、現在では訓練にも参加していない。
「そういえばシュンの奴は今日も来なかったな……あいつ、本当に大丈夫か」
「あれ、シゲル君……あんなに怒っていたのにシュン君が心配なの?」
「馬鹿野郎!!べ、別にそんなんじゃねえよ!!」
一人だけで不貞腐れていたシュンに対してシゲルは一時期は怒っていたが、ここ最近は訓練にも参加しない彼に対して色々と思う所はあった。そんなシゲルに対してアリシアは首を振る。
「今は放置しておくのが一番でしょう。シュン殿の心配ですが、まずは御二人の力を上げねばなりません。ですが、今日はもう引き返しましょう。これ以上に深入りは危険です」
「何だよ、もう終わりか……」
「それがいいと思う……流石にちょっと疲れちゃった」
3人だけで第五階層に潜り続ける事は危険だと判断し、撤退をアリシアは提案する。この古王迷宮で転移台や転移石の類は存在しないため、地上には徒歩で移動しなければならない。休憩地点を経由して3人は地上へと引き返す事にした――
※今後は地の文でも勇者達はカタカナで表記します。
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