第675話 剣の魔王の復活

「甦れ……新たな王よ!!」

「オオッ……!?」

「コ、コレハ……」

「ヒィンッ!?」



少年が杖を地面に突き刺した箇所から闇属性の魔力が溢れ、やがて白原に生えている全ての花が彼果てていく。闇属性の魔力は他の生物に体内に触れると生命力を搔き乱し、やがては死に絶える力を持つ。


大地がまるで死んだかのように植物が枯れ果てる中、やがて地中が盛り上がり、漆黒の卵のような物が出現する。それを目撃した竜人達は目を見開き、その卵のような物体からやがて腕が出現すると、中から頭に角を生やした大男が出現した。



『ウオオオオッ!!』

「オオッ……ワガ、アルジヨ」

「フッカツ、シタノカ」

「ヒィンッ……!!」



卵から出現した全身が漆黒に染まった大男が完全に姿を現す。その大男は胸元に大きな切り傷が存在し、左腕は欠損していた。しかし、抜け出した卵が突如として触手のように変化すると、大男の左腕と胸元の部分に纏わりつく。


やがて大男の左腕と胸元の傷の部分に闇属性の魔力が覆い込み、漆黒の腕を手に入れた大男は自分の身体を覗き込む。そして自分の前に立っている者達に気付き、声を張り上げた。



『これは、どういう事だ……何故、俺は生きている?』

「マオウサマ……!!」

「……ヒサシブリデゴザイマス」

『おおっ……我が両腕よ、お前達も生きていたのか。ギガン、ジャン』



は甲冑の巨人と竜人の姿を見て名前を呼び、かつてこの二人は剣の魔王の右腕と左腕と称されるほどの戦士達であった。しかし、既にこの二人は死んでいるはずであり、自分自身も勇者との戦闘で敗れて死んだ事を剣の魔王は思い出す。



『この力は……まさか、お前の仕業か?』

「バッシュ様、お久しぶりです」

『何!?何故、その名前を……いや、その声、その格好……覚えているぞ、貴様はあの御方の……!?』



自分の本当の名前を告げた少年を見て剣の魔王は戸惑い、すぐに気づく。かつて自分が主君として仰いでいた始祖の魔王の側近であるはずの少年がここにいる事にバッシュは戸惑う。


今一度バッシュは自分の身体を見渡し、そして失ったはずの左腕が存在する事に気付くと、全てを悟る。自分は勇者に敗れた後、この少年の手によって蘇った事を知った。



『そうか、そういう事か……思い出したぞ、我は勇者に敗れた。あの忌々しい勇者共に……!!』

「バッシュ様、我が主君である始祖の魔王はこの時代に勇者によって既に葬られました。もう二度と復活する事はありません」

『何だと……そうか、それで貴様は我を蘇らせたのか。この我にその勇者を殺し、あの御方の仇を討てというつもりか?』



始祖の魔王が既に消えた事を知ってバッシュは動揺するが、すぐに少年が自分を復活させた目的に察し、彼は自分を利用して復讐を考えているのだと考えた。しかし、その考えを少年は即座に否定した。



「いいえ、今の段階ではバッシュ様でもあの勇者に勝つ事は出来ないでしょう。ですから万全の準備を整える必要があります」

『なん、だと……!?』

「剣の魔王様には完全な肉体の復活まで時間が掛かります。その間、身を潜めて下さい……準備は私の方で勧めておきます。どうか、ご理解を」

『馬鹿な……それほどまでにこの時代の勇者は強いというのか?』

「ええ、といっても強いのはあくまでもこの国に召喚された勇者のみ……帝国で召喚された勇者ならばバッシュ様の敵ではありません」



バッシュは自分の肉体を見下ろし、確かにこんな肉体では生前のように戦えるはずがない。現在のバッシュは少年から生かされている立場である事を理解すると、自分が誰かに生かされているという現状は気に入らないが、勇者という存在に復讐できるのであれば彼はつまらない誇りは捨てた。



『よかろう、今はお前の言う通りに従ってやる。だが、我が部下共を命令できるのはこの俺だという事を忘れるな』

「ええ、勿論ですとも……では、早速ですがここから急いで離れましょう。勇者が訪れる前に……」

『ふんっ……その前に俺の武器は回収したのか?』

「無論、ここにあります」



少年はバッシュの言葉に漆黒の水晶玉を取り出して差し出すと、それを見たバッシュは水晶玉に掌を向ける。すると、水晶玉は突如として変形し、やがては漆黒の大剣と化す。しかも一つではなく、二つの大剣に別れてバッシュの手に収まる。



『ぬぅんっ!!』

「くっ!?」

「オオッ……!!」

「コレハ……!!」



剣の魔王が二つの大剣を地面に振り下ろした瞬間、強烈な衝撃が大地に走り、まるで十字を想像させる亀裂が発生した。その様子を見てバッシュは満足そうに頷き、左腕を見て問題なく扱える事を確かめた。



『気に入ったぞ、この腕……だが、流石にこの状態では戦えんな』

「お任せください、すぐに新しい腕を用意致しましょう……バッシュ様もきっと気に入ります」

『ふんっ……さあ、行くぞ』





――こうして世界の新たな脅威が復活した。

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