第674話 死骸の山

「な、何なんですか、これは!?」

「……飛竜の、死骸?」

「そんなっ……!!」

「「ク、クゥ〜ンッ……」」



岩山の頂上付近に辿り着くと、そこには大量の飛竜の死骸が横たわっており、何が起きたのか無残に殺された状態で放置されていた。飛竜の死骸は身体を引きちぎられたり、何かに噛みつかれたかのような跡が残っており、その様子を見たリリスは信じられない表情を浮かべて呟く。



「これは……見てください、この死骸。まるで力ずくで引きちぎったような跡がありますよ」

「力ずくって……」

「……トロールやミノタウロスでもこんな事は出来はしない」



仮にも竜種である飛竜の肉体を引きちぎる存在がいるなど考えられないが、実際にレア達の前には無残にも殺された飛竜の死骸の山が存在した。どの死骸も首や羽根や胴体の部分が力ずくで引きちぎられたような跡が存在し、何者かに殺された事は確かだった。


レアは死骸の一つに噛み千切られたような痕跡が残っているのを確認し、その傷跡の大きさを確認したところ、思っていたよりも随分と小さい。人間の仕業とは思えないが、だからといって火竜や牙竜のような大型の魔物に噛み千切られた跡ではない。



「こいつら……もしかして殺したのはガームさんが言っていた奴等じゃないの?」

「まさか……聖地に向かわずに先にここへ辿り着いていたんですか?」

「どうしてこんな場所に……」

「……飛竜を殺すのが狙いだった?」



無残に放置された死骸に視線を向け、ここでレアは疑問を抱く。それはどの死骸も胸元の部分が抉られている事に気付き、すぐにある事を思い出す。



「そういえば……火竜には核と呼ばれる魔石があったよね?なら、飛竜はどうなの!?」

「えっ……あっ!?そういえば飛竜にも核は存在します!!鉱物を喰らう竜種には必ず体内に核が出来るはずです!!」

「なら、ここにいる飛竜は全て核を奪わうためのに……?」



殺された飛竜の死骸からは全て核が摘出されている事が発覚し、これで敵の狙いが飛竜の核だと判明する。しかし、核を抜き取った理由が分からず、どうして数十体の飛竜の核を奪う必要があったのか理解できなかった。



「核なんか奪い取ってどうするつもりでしょうね……確かに竜種の核は希少で普通の魔石とは比べ物にならない性能を誇ります。ですけど、どうしてわざわざ危険を犯してこんな事をしたのか……数十体の飛竜と戦う羽目になっても核が必要だった、という所でしょうかね」

「分からない……けど、殺した後は何もせずにこんな風に放置するなんて」

「……惨すぎる」



核を回収するために殺し、その後の死骸は何もせずに放置したまま立ち去った敵のやり方にレア達は何とも言えない気分に陥り、残念ではあるが飛竜を味方にするのは不可能な状態だった。


ここまで来て無駄足で帰る事になるのは残念だが、敵がこの場所に訪れた事を知れただけでも収穫はあり、すぐにレア達は聖地へ向かう事にした――






――ケモノ王国に存在する聖地「白原」この場所にて勇者と剣の魔王は死闘を繰り広げたと伝えられている。ケモノ王国が召喚した勇者の手によって、この地で魔王は果てたという伝承が残っていた。そして、その聖地にかつて討ち取られた魔王の配下が降り立つ。



「……ココカ」

「フウッ……フウッ……!!」

「ブフゥッ……!!」

「…………」



見渡す限り、白く光り輝く美しい花々に覆われた草原に4つの影が差し、その正体は甲冑を身に纏った巨人、漆黒の鱗で覆われた竜と人間が合わさったような容姿の竜人、甲冑の巨人をも上回る体躯を誇る額に二つの角を生やした黒馬、最後に黒色のマントで全身を覆い隠す存在が立っていた。


白原の名前の由来はこの場所は白色の花が多数生えそろっており、辺り一面が白く染まっているように見える事から白原という名前が名付けられた。周囲が険しい岩山に囲まれながら、この場所だけがまるで別世界のように美しくのどかな風景が広がっている。



「……キニイランナ、コノフウケイ」



竜人は片言ながらも人語を話し、周囲に広がる光景を見て鼻を鳴らし、足元に生えている花を踏みつぶす。その隣に立つバイコーンは花をむしり取り、口に含む。甲冑の巨人は興奮した様子で黒マントに振り返る。



「ハ、ハヤク、シロ……ハヤク、マオサマ、フッカツ……!!」

「……分かっている」



ここで初めて黒マントの人物は言葉を発すると、その声音から男性である事が伺える。黒マントの人物は顔まで覆い隠していたマントを脱ぐと、黒装束を見に包んだ黒髪の少年のような容姿をしている事が判明した。


少年は杖を手にすると、その杖の先端には黒色の水晶玉が存在し、彼は地面へ杖を突き刺す。その瞬間、美しく白く染まった草原に闇の魔力が流し込まれ、白色の花は黒色へと変色を果たし、辺り一面が「黒原」と化す。

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