第673話 聖地への移動法
「敵が聖地まで辿り着くまでどれくらいの時間は残されていますか?」
「正直に言えば分からない……奴等が乗りこなすバイコーンは並の馬とは比べ物にならない移動速度を誇る。仮に我が軍の駿馬を用意したとしても追いつくのは不可能だろう……だが、奴等が聖地へ辿り着くまでもう少し猶予はあるはずだ」
「そんなに聖地は遠いんですか?」
「それもあるが、聖地は周囲が岩山に取り囲まれた場所に存在する。いかにバイコーンと言えど、岩山を越えるとなると時間は掛かるだろう」
聖地として扱われている「白原」は周囲が険しい岩山に囲まれており、いくらバイコーンであろうと聖地へ辿り着くまでもうしばらくの猶予は存在した。しかし、仮にレア達がここから追いかけても敵にバイコーンが存在する限りは追いつく事は難しい。
「困りましたね、まさか敵に乗り物代わりの魔獣が控えているとは……」
「シロとクロでもバイコーンを追いかけるのは難しい」
「いったいどうすれば……」
「こんな時に飛行船さえあれば……飛行船?」
リリスは飛行船が完成していれば険しい岩山だろうが空を飛んで移動できると考えた時、不意にある事を思い出したようにガームに振り返る。
「そういえば北の地には「飛竜」が生息していると聞いていますけど、本当ですか?」
「飛竜?それって、ジョカが従えていた奴?」
「あの小さい竜の事?」
飛竜は竜種の中では比較的に小柄であり、場合によって人間の手で飼育する事も出来る。リリスの記憶が確かならば飛竜はケモノ王国の北方領地にも存在するはずであり、ガームも頷く。
「うむ、飛竜は確かにこの領地にもいるが……まさか、奴等を手懐けるつもりか?それは止めておけ、奴等を捕まえようとした連中は何人も見てきたが、野生の飛竜は絶対に人には懐かん!!」
「大丈夫ですよ、こっちは勇者様がいますからね。どんな猛獣だろうと勇者パワーで何とかできます」
「し、しかしだな……」
「ガーム将軍、時間がないんです!!飛竜の居場所を教えてください!!」
ガームは飛竜の住処を教える事に躊躇したが、敵が聖地に辿り着く前に追いつかねばならず、レアは語気を強くして問い質す。その彼の迫力にガームは気圧され、止む無く飛竜の住処を教えた――
――飛竜が住処としている場所は「竜の巣」と呼ばれる鉱山地帯であり、飛竜はそこで暮らしている。竜種の中でも飛竜は縄張り意識が強く、滅多に住処から離れる事はない。
飛竜の主食は生物を食べる事もあるが、主に風属性の魔石などの鉱物を食べる事を好む。火竜が火山に住み着くように彼等は風属性の魔石が発掘される鉱山を好み、その場所に暮らす事が多い。
竜の巣という名前の通り、北方領地に存在する飛竜の住処は大量の飛竜が住み着き、その場所に足を踏み入れた人間は二度と生きて戻ってくることはないと言われている。いくら飛竜が生物よりも鉱物を好むとはいえ、縄張りを犯した存在を見つければ許すはずがない。そんな危険な場所にレア達は足を踏み入れ、飛竜の捜索を行う。
「ここが飛竜の巣か……思っていたよりも綺麗な場所だね」
「牙山と比べたら道も広いし、移動しやすくて助かりましたね」
「……でも、血なまぐさい匂いがする」
「「クゥ〜ンッ……」」
レア達はシロとクロに辿り着き、思っていたよりものどかな風景にレアとリリスは意外に思うが、一方でネコミンとシロとクロは鼻を抑える動作を行う。鼻が鋭い彼女達によると、この島は動物の血の臭いがあちこちからするらしく、恐らくは住処に入り込んだ生物が飛竜の餌食となり、その影響で血の臭いが漂っているのだろう。
いくら牙竜や火竜と比べれば危険度は低いとはいえ、飛竜も竜種である事に変わりはなく、油断できる相手ではない。レナ達は慎重に周囲を警戒しながら進み、飛竜の居場所を探す。
「どうですかレアさん、解析の能力で飛竜の居場所とか分かりませんか?」
「さっきから試してるけど、やっぱり駄目だね。足跡とかがあればいつ何処で通ったのかも分かるんだけど……」
「くんくんっ……こうも血生臭いと私の鼻も利かない」
「「ウォンッ」」
山道を進みながら飛竜に繋がりそうな手がかりを探すが、それらしき物は見当たらず、いつしかレア達は頂上へ向けて近付いていた。ガームの話によると飛竜は高所へ住処を形成する気質らしく、あまりに頂上に近付くのは危険だが、飛竜が見つからなければ仕方がない。
「うっ……どんどん血の臭いが強まってくる。気分が悪くなってきた」
「ネコミン、大丈夫?」
「私もちょっと鼻がきつくなってきましたね……でも、いくら飛竜の巣があるからって、流石にこの血の臭いはやばくないですか?」
頂上に近付くとレア達の鼻にも血の臭いが広がり、流石にここでリリスも違和感を感じとる。そしてレア達が頂上付近に辿り着くと、そこには異様な光景が広がっていた。
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