第671話 リリス「待たせましたね(イケボ)」
「よし、あった……これを使おう」
「勇者殿、それは……望遠鏡か?」
「そんな物で何をするつもりだ?まさか、リリスが作った変な魔道具か!?」
「それ、本人に言わないであげてよ……」
レアは鞄から取り出したのは「望遠鏡」であり、その望遠鏡にはシールのような物が張り付けられていた。レアは皆の前で見せつけるようにシールを引き剥がすと、ここで解析の能力を発動させて望遠鏡の詳細画面を開く。
(大丈夫、絶対に上手くいく……イメージするんだ)
望遠鏡の詳細画面を開いた状態でレアは自分がいま必要としている魔道具の存在を想像し、指先で文字を書き込む。やがて名前の変換に成功すると、望遠鏡が光り輝き、それをレアは手放すと次の瞬間に望遠鏡は台座のような形に変化を果たす。
「こ、これは……!?」
「ま、まさか……転移台か!?」
皆の前で望遠鏡が転移台に変化を果たすと、その光景を見た者は驚き、一方でレアの方は額の汗を拭う。成功するか不安ではあったが、同じ文字数であった事が幸いし、望遠鏡を利用して転移台を作り出す事に成功した。
魔道具である転移台を人前で作り出した事に問題があるのではないかと思われるが、レアはそれを見越してわざとらしく張られていたシールを拾い上げる。シールを大切双に拾い上げたレアを見た者は望遠鏡に張り付けられていたシールに何か秘密があるのではないかと考える。
「勇者殿、今のは何なんだ!?その付いていた物を取った瞬間に変化したように見えたが……」
「あ、これは最近に大迷宮から発見した魔道具です。これを取りつけると、物体を別の物体に変化させる能力があって……俺達はマジック・シールと呼んでいます」
「何!?そんな便利な魔道具があったのか!?」
「そうだよね、チイ?」
「えっ!?あ、ああ……そういえば、そんな物もあった……か?」
レアの言葉にガームは驚愕し、まじまじとレアが所有するシールを見つめる。ちなみにレアの言葉は真っ赤な嘘であり、こちらのシールは人前で文字変換の能力を発動する際に誤魔化すために用意したリリスが自作した物である。話を急に振られたチイは慌てて口裏を合わせてくれたお陰で他の人間に怪しまれる事はなかった。
「むう、こんな紙切れみたいな物を張り付けただけであんな小さな筒をこんな大きさの物に変化させるとは……初めてそんな魔道具があるなど聞いたな」
「大迷宮で封印されていた魔道具ですから知らないのも無理はないですよ」
「そ、そうなのか……だが、これは何という道具なのだ?見た所は台座のように見えるが……」
「これは転移台という魔道具です。待っててくださいね、今から起動させますんで……」
転移台を初めて見るガームは戸惑うが、ここでレアは転移台の中央部に魔石を嵌め込むと、すぐに転移台が光り輝く。転移台を使用するには魔石を必要とするが、魔石を嵌め込む際に転移台は発光する。
転移台の起動に成功すると、万が一の場合を想定して王都に事前に作り出していた転移台も反応する仕組みだった。転移台が反応を示せば王都の者達もすぐに異常事態を察し、対応してくれるはずだった。
(リリス、頼む……気づいて!!)
王都に残っているはずのリリス達が転移台の反応に気付けばすぐに駆けつける手はずであり、しばらくすると転移台から光の柱が誕生し、大量の薬箱を抱えたリリスとネコミンが転移してきた。
「怪我人は何処ですか!?」
「レア、チイ、無事?」
「うおおっ!?ひ、人が出てきたぞ!!」
「落ち着いて下さい、王都から転移してきただけですから!!」
唐突に転移台から出現したリリスとネコミンにガームは驚愕の声を上げるが、リリスとネコミンは周囲の状況を把握し、何が起きているのかを察すると手に抱えていた木箱を下ろす。
「レアさん、私達をわざわざ呼び出したという事は何か問題が起きたんですね?今はどういう状況ですか?」
「それが……ここにいる皆、呪詛に侵されているんだよ。だから、普通の回復薬やここにいる治癒魔導士の回復魔法だと効果がなくて……」
「確かに皆、酷い状態……このままだと数日も持たない」
ネコミンは倒れている兵士の様子を調べ、すぐに彼女は真剣な表情を浮かべてリリスに頷く。リリスも倒れているに兵士の状態を伺うと、持ち込んだ薬箱の中から「聖水」を取り出す。
「そういう事なら私が調合したとっておきの聖水が効きますよ!!これは森の民が育てていた特別な薬草と、聖石と呼ばれる魔石から作り出した物です!!これを飲めば呪詛に侵された人間も回復しますよ!!」
「本当か!?」
「私も回復魔法で治して見せる……にゃああっ!!」
「うわっ!?ね、ネコミン!?いつの間にこれほどの魔力を……!?」
リリスは持参した聖水を兵士達に渡し、それを飲ませる事で呪詛の回復を計る。普通の回復薬では呪詛を消し去る事は出来ないが、リリスの聖水は聖属性の魔力を含んでおり、呪詛にも効果はあった。
一方でネコミンの方は回復魔法を施し、兵士の体内の呪詛を取り払おうとする。普通の治癒魔導士の回復魔法は全く受け付けなかったが、ネコミンの回復魔法を受けた兵士は顔が安らかになる。
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