第668話 新たな脅威

「――報告は以上でござる、現在も大迷宮付近の地域の調査を行っているでござるが、未だに姿を消した甲冑の巨人と、黒マントの人物の情報は届いていないでござる」

「そうか……」

「くそっ……いったい何者だ!!」



巨塔の大迷宮から出現した「甲冑の巨人」とそれを従える謎の存在が現れてから数日後、王都に存在するリル達も事態を把握して対応を行う。この二つの存在のせいで多くの犠牲者が生まれた。


農園と大迷宮の警備を任せられていた兵士は甲冑の巨人によって打ち倒され、多数の死傷者が生まれた。農業の指導を行っていた森の民も被害を受けており、王国の騎士をも上回る技量を持つ彼等でさえも甲冑の巨人を止める事は出来なかったという。



「今のところ兵士の死者は130名、怪我人は約300名確認されいてるでござる。更に農園の方も被害が大きく、収穫前の畑もかなりやられたようでござる」

「おのれ!!兵士だけではなく、農園まで……私達がどれほど苦労して作り上げたと思っているんだ!!」

「落ち着いて下さい、怒ったところで仕方ありませんよ」

「リリス!!戻ってきていたのか!?」



玉座の間で報告を受けたチイが憤る中、リリスが扉の方から訪れる。その傍には大量の本を抱えたレイナとネコミンも存在し、他にもティナやリュコの姿もあった。



「リリス、例の巨塔の大迷宮に存在した死霊使いが残した日記から、何か情報は掴めたか?」

「ええ、最近は色々とあって調べる暇がありませんでしたが、どうにかレイナさんの協力もあって私達が現在欲している内容の日記は発見できました」

「でも、本が多すぎてここまで運ぶのに時間が掛かりました」

「凄い数の書物でしたからね……」

「私は本は苦手だ……」



海底王国から帰還したレイナ達は巨塔の大迷宮に現れた二つの存在を知り、すぐにリリスはかつて巨塔の大迷宮を攻略した際、第三階層の魔王の城から持ち出した日記をしらべる。


この日記は「剣の魔王」と呼ばれた存在の配下が残した日記であり、大迷宮から出現した二つの存在の秘密を知る情報が記されているのではないかと考えられた。だが、日記は数百年分も存在するため、必要な情報を探し出すのに少々手間取ってしまった。



(解析の能力で俺達が必要としている日記だけ見分けることが出来て良かった……)



全ての日記を調べる事になったらいくら人手が多くても時間が掛かり過ぎるため、レイナは駄目元で解析の能力を発動させる。その結果、視界に収めた日記から現在の自分達が必要とする本を見出す事に成功し、ここまで運び出す事に成功した。



「レイナさんの協力がなければ人海戦術で本を読みまくるしかありませんでしたね。本当に困った時のレイナさん頼りです」

「そんなドラ●もんみたいに頼られても困るよ」

「まあ、それよりもレイナさんが見出した本は一通りは私も調べてみましたが、その中で気になった文章だけを教えます」



リリスは大量の本を床に置くと、その中で1冊の日記を取り出し、中身を開いて答える。日記の内容は当時の剣の魔王の配下に関する情報が記されていた。



「この日記の内容によると、剣の魔王の配下の中に巨人族のように巨体で、それでいながら優れた剣技を身に付けた存在がいたそうです。その剣士は常に甲冑を身に纏い、剣の魔王の右腕として活躍したようですね」

「では、まさか大迷宮から出現したあの甲冑の巨人は……!?」

「まだ断定はできませんけど……この剣士は巨塔の大迷宮内で死亡したそうです。なんでも勇者によって討ち取られた後、砂嵐が発生して死体は消えてしまったとか……」



日記の内容を語り終えると、リリスは次の日記を手にした。そちらの日記には剣の魔王が最後に行おうとしていた計画が事細かに記されていた。剣の魔王が城を発つ前に配下に計画の内容を話し、それを記録したものらしい。



「この記録の内容によると、剣の魔王は外の世界に存在した「白原」と呼ばれる場所で勇者と決戦を挑むつもりだったようです。この地にて勇者と雌雄を決し、打ち倒した時はこの城に戻ると報告していたそうですが……結果から言えばこの日を最後に魔王が戻ってくる事はなかったようですね」

「白原……それはもしや、剣の魔王と当時の勇者が最後の決戦を繰り広げたと言われる伝説の場所か!?」

「現在では勇者が魔王を打ち倒した聖地として扱われ、立ち入りが禁じられているとか……」



ケモノ王国内には「白原」と呼ばれる場所が存在し、その場所は名前の通りに白色の植物で構成された野原が広がっていた。


この地域にはかつて「白竜」と呼ばれる竜種の住処だと言われ、かつて剣の魔王と勇者が最後に死闘を繰り広げた場所として聖地として扱われている。

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