剣の魔王編
第667話 巨塔の大迷宮の異変
――ケモノ王国に存在する「巨塔の大迷宮」の周囲には大規模は農耕が行われ、数百名の「農民」の称号を持つ者達が管理を行う。彼等が育て上げる農作物は非常に成長が早く、それでいながら栄養価も高い。
これまでのケモノ王国は農作業はそれほど発達しておらず、薬草が育ちやすい土地を所有していたため、薬草栽培に専念していた。貴重な薬草と引き換えに帝国から食料を輸入してきたが、勇者レアと森の民の協力によって農業改革が行われ、今現在では予想の遥かに超える農作物の収穫量だった。
農民の称号を持つ存在が増えた事と、森の民の指導の元で農作業もの方法も改善され、現在では大量の農作物を入手する。この調子でいけば来年は更に大量の農作物が手に入り、今後は帝国だけではなく、他の国との交流にも利用が考えられていた。
そんな時、巨塔の大迷宮に異変が訪れる。最初にその異変に気付いたのは巨塔の大迷宮の見張りを行う兵士達であり、突如として彼等は大迷宮へ入り込むための転移台が作動した事を確認する。
「うわっ!?な、何だ!?」
「おい、どういう事だ!?何が起きたんだ!!」
「わ、分かりません!!勝手に転移台が……」
現在は巨塔の大迷宮の出入りは禁じられており、誰も入ってこれないように常に兵士達が見張りを行う。しかし、どういう事なのか誰も触れていないのに転移台が突如として発動し、転移台が光り輝く。
「馬鹿な!?この反応はまさか……誰かが出てこようとしているのか!?」
「そ、そんな!!あり得ません、現在は誰も利用していないはずです!!」
転移台が反応するときは外部から大迷宮に入ろうとする者がいるか、あるいは大迷宮の内部に存在する人間が転移台を利用して脱出しようとしているかの二つである。そして後者の場合は大迷宮の見張りを行う兵士達の記憶の限り、現在は誰も大迷宮に挑んでいないはずである。
しかし、誰も存在しないはずの大迷宮の内部から何者かが外の世界へ脱出しようとしているのは間違いなく、兵士達は慌てて転移台を取り囲む。何者が現れるのかと待ち構えると、やがて出現したのは巨人族ほどの大きさを誇る甲冑と、その傍に立つ全身を黒色のマントで覆い隠した人物だった。
『フウッ……フウッ……』
「…………」
「な、何者だ貴様等!!」
「何処から出てきた!?」
大迷宮から突如として現れた二人の人物に王国兵は武器を構え、騒ぎを聞きつけた農作業の指導役の森の民も駆けつける。彼等は巨人族級の大きさを誇る甲冑の戦士と、マントで覆い隠した人物を見て驚愕の表情を浮かべる。
「どうした!?何事だ!?」
「わ、分かりません!!この者達が急に現れて……」
「うっ……な、何だこの禍々しい気配は……!!」
森の民のエルフは普通の獣人や人間よりも感覚が鋭く、転移台から出現した者達から吐き気を催す程の「闇属性」の魔力を感知する。相手の正体は分からないが、少なくとも只の人間と巨人族であるはずがない。
突如として出現した者達に兵士と森の民は警戒すると、黒色のマントに覆い隠した人物は甲冑の戦士に振り返り、頷く素振りを行う。どちらも全身を覆い隠しているので容姿は分からず、特に甲冑の戦士の方は目元を怪しく光り輝かせる。
『ウオオオオオッ!!』
「く、来るぞ!?」
「おのれ、舐めるな!!」
「捕まえろ!!」
甲冑の戦士は雄たけびを上げると、転移台から降り立ち、兵士達に目掛けて駆け出す。その行動を見て兵士達は咄嗟に武器を構え、森の民も彼等の援護に動こうとした。
「全員で一斉にかかれ!!」
「刺突!!」
「牙剣!!」
「兜割り!!」
王国兵の中には戦闘職の称号を持つ者も多数存在し、彼等は戦技を発動させて同時に甲冑の戦士に切りかかる。しかし、甲冑の戦士は巨体でありながら身軽な動作で彼等の攻撃を躱し、それどころか武器を奪い取る。
『フンッ!!』
「うわぁっ!?」
「なっ!?こ、こいつ……!!」
「この巨体で何という速度だ!?」
甲冑の戦士は槍を突き出した兵士から槍を奪い取ると、自分の身体のサイズには合わない事を確かめ、槍を放り捨てる。巨人族級の巨体でありながら獣人族並の身軽さに兵士や森の民は動揺を隠せない。
その一方でもう片方の黒色のマントの人物は兵士達の注意が甲冑の戦士に向いている間に地面に降り立つ。その直後、足元の影にまるで飲み込まれるように姿を消す。
「なっ!?もう一人の奴がいなくなったぞ!?」
「そんな馬鹿な!?」
「ど、何処に消えた!!」
「馬鹿野郎!!それよりもこいつを取り押さえる事に集中しろ!!」
『ウガァアアアッ!!』
兵士と森の民は遅れて消えてしまった黒色のマントの人物を探すが、その間にも甲冑の戦士は咆哮を放ち、兵士達へと襲い掛かった――
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