第666話 魔王は一人ではない

「皆様が倒した始祖の魔王には配下が存在しました。始祖の魔王が初代勇者に破られた後、魔王の配下達はそれぞれが始祖の魔王の意思を継ぎ、新たな魔王を名乗りました」

「魔王……もしかして、剣の魔王の事ですか!?」



ケモノ王国にはかつて「剣の魔王」と呼ばれる存在がおり、巨塔の大迷宮では剣の魔王が生前に残した城も残っていた。後に勇者に敗れて打ち滅ぼされたと伝わっているが、セリーヌによると剣の魔王も始祖の魔王の配下の一人でしかないという。



「その通りです。始祖の魔王が敗れた後、魔王の名前を語った存在は全て始祖の魔王の配下でした。最も、どの時代の魔王もその時に召喚された勇者によって討ち取られています」

「なるほど、勇者が魔王を滅ぼす存在というのは本当だったんですね。この時代もレイナさんが復活した始祖の魔王を倒しましたし……」

「いいえ、真の脅威は別に存在します。始祖の魔王は敗れた後、どのようにして肉体を失いながらも復活を果たしたのか……それは魔王の配下に「死霊使い」の存在がいたからです」

「死霊使い……!?」



セリーヌの言葉にレイナ達の間に衝撃が走り、ここでリリスは一足先に気付く。セリーヌが始祖の魔王と語る存在は王都でレイナが打ち倒した魔王である事は間違いない。だが、始祖の魔王は実体を持つ存在ではなく、アンデッドの一種である「死霊ゴースト」である事を思い出す。


始祖の魔王は勇者によって討ち滅ぼされた後、死霊使いの手によって「死霊」として蘇った。しかし、死霊は死霊使いが存在する限りでしかこの世に活動は出来ず、死霊使いが生きていなければ死霊は現世に存在する事は出来ないとセリーヌは語る。



「始祖の魔王が復活を果たしたのは何者かが始祖の魔王の魂をこの世界に引き戻したのです。そして、恐らくその者は魔王の配下……数百年以上の時も生きる存在でしょう」

「数百年以上……という事はエルフみたいに長命な種族なんですか?」

「エルフが魔王軍の配下になったという話は残っていません。誇り高きエルフは魔王には屈せず、我々人魚族と同様に勇者に協力して戦い続けました。恐らく、考えられるとしたら長命な魔人族でしょう」

「吸血鬼辺りかもしれませんね。吸血鬼は定期的に他者の生命力を奪う事で肉体を維持できますし、永遠に近い時を生きられると聞いた事があります」

「という事は……始祖の魔王を蘇らせた魔王軍の残党がまだいたのか」



レイナ達は先の王都での戦闘で魔王と魔王軍を全員倒したと考えていたが、セリーヌによればまだ始祖の魔王を復活させた存在が残っているらしく、その存在に気を付けるように促す。



「始祖の魔王を復活させた者の正体は分かりません。ですが、お気を付けください。もしも敵の狙いが始祖の魔王の意思を引き継ぎ、この世界を征服するのが目的だった場合……その敵は必ずや魔王を復活させるでしょう」

「えっ!?ちょっと待って!!始祖の魔王は俺達が完全に倒したはずですよ!!」

「そうですね、聖剣の力で確かに始祖の魔王は滅びたはずです。いくら死霊といえど、完全に浄化された存在は甦らせる事は出来ないはずです」

「……先ほども言ったはずです、魔王を名乗った存在はではないと」

「まさか……!?」



セリーヌの言葉にレイナ達はある事を思い出し、これまでにこの世界には「魔王」を名乗る存在が複数もいた。その魔王たちは始祖の魔王の配下にして、始祖の魔王の意思を引き継ごうとした。


全ての魔王は勇者によって倒されたはずだった。だが、初代勇者に滅ぼされた始祖の魔王が復活を果たした事を考えると、その死霊使いは他に討ち取られた魔王を蘇らせる力を持っている事を――






――同時刻、巨塔の大迷宮で異変が起きようとしていた。その異変に真っ先に気付いたのは巨塔の大迷宮を管理していた王国兵だという。





※今日はここまでです。次回から新章に入ります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る