第665話 海底の城

――その後、レイナ達は城の方へと案内されると、玉座の間にて改めてセリーヌと向かい合う。玉座にセリーヌは腰かけると、レイナ達は一応は女王が相手なので膝を着こうとするが、彼女は慌ててそれを止める。



「勇者様、どうか私如きに膝を着くのはお辞め下さい。我々は勇者様に崇められる存在ではありません!!」

「いや、でも……」

「まあ、本人がそう言うのならいいんじゃないですか?」



自分などに跪く事にセリーヌは抵抗感を覚えたらしく、彼女はレイナ達を立たせると改めて騙して勇者の宝玉が取り付けた杖を攫わせた事を謝罪した。



「先ほどは本当に失礼致しました。勇者様を試すような真似をして申し訳ございません」

「まあ、別に俺は気にしてませんけど……でも、どうして俺が勇者だと思ったんですか?」

「先日の海竜との戦闘で見せた人間離れした力、あの時から確信していました。きっと、貴女様が勇者であると……」



先日のレイナの戦いぶりを見たセリーヌは彼女の常人離れした力を見せつけられ、直感でセリーヌはレイナの正体が勇者ではないのかと気づく。それを確かめるため、わざわざ海底の国にまで連れ出し、勇者であるかどうかを確かめる宝玉を取りつけた杖を用意した。


勇者の宝玉は異世界から訪れた勇者にしか反応を示さず、この世界の人間が触れても反応は訪れない。だが、レイナが触れた途端に宝玉が反応した事で人魚達は彼女の正体が勇者だと知る。



「レイナ様、貴女は帝国で召喚された女勇者様ですか?ですが、噂だと名前は違うようですが……」

「えっと……」

「その辺の事情を説明すると色々と難しいんですよ。とりあえず、レイナさんは帝国の勇者ではなく、ケモノ王国の勇者だと思ってください」

「ではケモノ王国が勇者召喚を……!?」

「そこら辺はおいおい話します。それよりもこちらとしてはレイナさんが勇者である事を大々的に広められると困るんですよ。そこら辺は黙ってくれますか?」

「え、ええっ……分かりました。勇者様の存在は決してこの国の者達には口外させません。そもそも我々は滅多に地上には赴きませんのでご安心ください」



リリスの言葉にセリーヌは承諾し、レイナが勇者である事を決して地上の人間には漏らさない事を誓う。それだけでも十分であり、その事にレイナ達は安堵する。もしもレイナの正体が知られると色々と面倒な事になってしまう。



「……聖剣の件はどうなったの?レイナが持っている聖剣がこの国で盗まれた物じゃないのは分かった?」

「はい、帰国後に確かめた所、聖剣デュランダルは無事に保管されていました。しかし、それならばレイナ様が所持している聖剣は……」

「あ、この聖剣は複製品です。複製と言っても、本物と同じ能力を持っているんですけど……」

「せ、聖剣の複製品……?そんな物がどうして地上に……」

「勇者には特別な能力が備わっているのは知ってますね?この聖剣はレイナさんの能力で作り出されたんですよ」

「なるほど、そういう事でしたか……確かに伝承によると、全ての勇者は我々には扱えない「加護」と呼ばれる能力を持っていると聞いております」



レイナが聖剣デュランダルと同じ力を持つ武器を持っている事にセリーヌは戸惑うが、リリスの話を聞いて納得したように彼女は頷く。人魚族の間でも勇者は特別な力を持つ存在として語られており、彼女はレイナの能力が「武器を複製する力」だと判断した。


実際の所はレイナの能力は武器だけではなく、あらゆる物を作り替える能力なのだが、その辺の事情まで話すつもりはない。まだどんな存在も分からない相手に能力の全貌を話すわけにはいかない。



「それでは今回の呼び出しの件なんですけど、私達を呼び寄せたのはレイナさんの正体を知るためですか?」

「いえ……確かにそれも理由の一つですが、もしもレイナ様が勇者だった場合、どうかこの世界の危機を知らせる必要があると思い、ここへ招いたのです」

「この世界の危機……?」

「それはもしかして魔王の事を言ってるんですか?」

「魔王ならもう私達が倒した。だから、怖がる必要はない」



セリーヌの言葉にレイナ達は疑問を抱き、世界の危機と言われて真っ先に思いつくのが魔王や魔王軍の存在だが、どちらも既にレイナとケモノ王国の勢力が壊滅させている。その噂はもう他国にも知れ渡っているはずだが、セリーヌは首を振った。



「いいえ、確かに皆様が倒した「始祖の魔王」もこの世界に害を為す存在ですが、真の脅威はまだ別にいます。それも……一つではありません」

「始祖の魔王?」

「どういう意味ですか?まさか、魔王の他にも脅威な存在がいるんですか?」



レイナ達はセリーヌの言葉を聞いて驚き、自分達が倒した「始祖の魔王」と呼ばれる存在以外にこの世界に危機を齎す存在がいる事に動揺する。

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