第664話 勇者の宝玉

「そんなに魔力があるんですか?俺自身はよく分からないんですけど……」

「いやいや、普段からあれだけ聖剣を扱いこなしているのに何を言ってるんですか」

「えっ?」

「もしかして今まで気づいていなかったんですか?聖剣の力を使う場合は魔力を消耗してるんですよ。フラガラッハはともかく、デュランダルの場合だと衝撃波を生み出す時は所有者の魔力を吸い上げてますからね」

「あ、言われてみれば……」



レイナは聖剣などの武器を扱う場合、体力を消耗する感覚に襲われる。この時に体力だけではなく魔力も使用しており、仮に並の人間が聖剣を扱う力を持っていてもすぐに魔力を消費して倒れてしまう。


聖剣や魔剣の類は能力を使用する度に魔力を消耗する機能があるため、決して万能な武器とは言えない。だが、レイナの場合はレベルが非常に高く、しかも勇者としての素質があるためにそこいらの魔術師とは比べ物にならない量の魔力を持っている。



「……やはり、話を聞いたときから薄々とは気づいていましたが、貴女様はただの人間ではありませんな?」

「まあ、普通の人間……とは言えませんね」



こちらの世界の人間からすればレイナは「異世界人」であるため、普通の人間とは違う。ジジの言葉にレイナは素直に肯定すると、彼は兵士に命じて杖のような物を用意させる。その杖の先には水晶玉のような物が取り付けられていた。



「皆様、女王様にお会いになられる前にご面倒をおかけしますが、こちらの杖をお持ち下さいますか?」

「杖?何ですかこれ?」

「この杖は我が人魚族に伝わる国宝でございます。悪しき心を持つ者を見抜く力を持つと言われております……この杖に触れた時、水晶玉が黒く変色すればその者は邪心を抱いていると判断し、この国から追放となります」

「怖いですね、要するに悪人を見抜く魔道具みたいな物ですか」

「……それだとリリスが持ったら危険そう」

「どういう意味ですか!!私の心は常にピュアです!!」

「ええっ……」



普段から危ない実験や目的のためには割と手段を択ばないリリスに邪心がないのかは不明だが、とりあえずは城へ入る前の検査のような物だと判断し、まずはネコミンから杖を受け取る。



「触ればいいの?」

「はい、杖を握りしめるだけで十分でございます」

「こう?」



ネコミンは杖を振れても特に変化は怒らず、彼女には邪心が存在しない事が証明される。続けてリリスが杖を受け取るとが、特に反応は起きない。



「ほら、どうですか!!何も起きなかったでしょう!?私に邪心なんてありません!!」

「ごめんって……」

「本当にちゃんと握ってる?」

「失礼な、あんまり意地悪な事を言うと今度からネコミンさんのご飯は野菜だけにしますよ!!」

「そ、それは止めて欲しい……」



基本的にネコミンのような猫型の獣人は肉や魚を好み、野菜だけの生活は嫌らしい。最後にリリスは杖をレイナに渡そうとすると、この時に周囲の人魚達が注視する。


周囲の視線を感じながらもレイナは杖を握りしめると、しばらくの間は何も起きなかった。その反応に人魚達は半分は安堵するが、もう半分は残念そうな表情を浮かべる。彼等の反応にレイナは疑問を抱くと、杖を手放そうとした時に異変が訪れた。



「うわっ!?」

「きゃっ!?」

「にゃっ!?」

「こ、この光は……!?」



レイナが杖を手放そうとした瞬間、水晶玉が光り輝き、周囲の者が目を眩むほどの閃光を放つ。反射的にレイナが杖を手放すと、杖は空中(海の中なので水中だが)に浮かび、光が徐々に収まっていく。



「こ、この反応は……まさか、そんなっ!!」

「あの、何ですかこれ?何が起きたんですか?」

「やはり、そういう事でしたか……」

「じょ、女王様!?」



目の前に浮かんだ杖にレイナは戸惑うと、周囲の人魚達が騒ぎ始める。そして城の城門の方から女王であるセリーヌの声が響き、彼女は数名の戦士を引き連れてレイナ達の前に現れる。


女王が姿を現すと男性んお人魚はその場で下半身を二股に変化させて膝を着くが、女性の方は胸の前に両手を組んで頭を下げる。セリーヌはそんな彼等を素通りして浮揚する杖を掴むと、改めてレイナと向き直った。



「……お待ちしておりました、勇者様」

「えっ……」

「ゆ、勇者!?」

「では、やはりこの御方が……!!」



レイナは自分の正体を晒していないのにセリーヌが勇者である事に見抜かれ、周囲の者達は驚愕の表情を浮かべてレイナに視線を向ける。一方で驚いているのはレイナ達も同様であり、どうしてレイナは自分が勇者だと知られたのかと思うと、セリーヌは杖を差し出して答える。



「この杖に取り付けられているのは勇者の宝玉……この杖を勇者の資格を持つ物が触れた場合、反応する仕組みとなっているのです」

「えっ、でもさっきは邪心に反応するって……」

「申し訳ありません、先ほどの言葉は嘘なのです……貴方様が本物の勇者なのかどうかを確かめるため、嘘を吐きました。どうか、お許しください……」



セリーヌの言葉を聞いてレイナ達はジジに嘘を吐かれていた事を知り、この勇者の宝玉と呼ばれる杖によってレイナは勇者である事が見抜かれてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る