第663話 海底国家アトランティス

やがて時間が経過すると、段々と周囲の光景が暗くなり始め、海底へ向けて近付いていく。海底には日の光は届かず、暗闇の世界だという事はこの世界でも共通らしい。人魚族の場合は暗闇の中でも見えているのか特に気にした風もなく進んでいく。



「大分暗くなってきましたね、海底の国までどれくらいで辿り着けるんですか?」

「もうすぐです、それとここからはしっかりとオオウミガメに掴まって下さい。もうすぐ海流に乗って移動しますので……」

「海竜?」

「海流ですよ、海竜じゃありません」



ネコミンのボケにリリスが突っ込み、やがてレイナ達の乗っているオオウミガメが海流に入ったのか、一気に移動速度を上昇させて海底へ向けて移動を開始する。



「うわっ!?ちょ、飛ばされないように気を付けて!!」

「ぷるるるんっ!?」

「ああっ!?クロミンが風圧……いや、水圧?とにかく衝撃で凄い事になってます!!」

「震えすぎて大変な事になっている……」

「しっかり掴まって下さい!!途中で降りますので!!」



海流に乗ったレイナ達は一気に海底の方へ移動を行い、やがて海流を抜け出すとレイナ達の視界に光が映し出される。日の光が届かない程の海の底に存在するにも関わらず、どうして光があるのかとレイナ達は戸惑う。



「何ですか?あの光は……」

「なんだか綺麗……」

「チョウチンアンコウ……なわけないか」

「ご覧ください、あれが我等の国です。海底国家アトランティスでございます」



ウオは光が放たれる方向を指差し、誇らしげに答える。アトランティスという言葉にレイナとリリスは反応し、地球にも伝説の都として語り継がれている同名の国がある事を思い出す。最も地球のアトランティスは実在したのかどうかは不明だが、この世界では本当に存在するらしい。


光り輝く場所へ近づくと、その正体が青色に光り輝く光球である事が判明し、その青色の光に照らされた場所には街が存在した。厳密に言えば元々は街だと思われる大量の廃墟が広がっており、そこには大勢の人魚族が出回っていた。



「ここが……海底国家ですか?」

「その通りでございます。この場所は元々は島国でかつては人間と人魚族が共に暮らしていました。しかし、天変地異に襲われて島は海の底に沈没してしまい、今現在では当時の建物だけを残って人魚族だけが暮らしています」

「へえっ……こっちの世界のアトランティスも海の底に沈んだのか」

「こっちの世界……?」

「あ、何でもないです」



レイナの呟きにウオは訝し気な表情を浮かべるが、慌てて誤魔化すようにレイナは愛想笑いを浮かべる。やがてオオウミガメは廃墟の街の中心地に存在する大きな建物へ向かう。



「ご覧ください、あの場所こそがアトランティスが陸地に存在した時代、世界で最も美しいと言われた城、水晶城でございます」

「うわっ、本当に綺麗ですね」

「……本当に水晶で構成されている」

「凄いな……」



アトランティスの中心地には水晶のように光り輝く美しく巨大な城が存在し、その場所にレイナ達は移動する。すると、そこには既に数十名の戦士達が城門の前で待ち構えると、レイナ達を迎え入れた。


ここでレイナ達はアオウミガメを降りると、彼等の前に年老いた男性の人魚が前に出ると、レイナ達の前で頭を下げる。どうやらウオよりも高位の人物らしく、彼も他の戦士と共に敬礼を行う。



「本日はよくお越しくださいました。私の名前はジジ、この国の宰相を務めています」

「あ、これは失礼……申し遅れました。私はケモノ王国の研究家を務めているリリスです」

「白狼騎士団所属、第二部隊隊長のネコミンです」

「えっと……白狼騎士団所、属第一部隊隊長のレイナです。一応は女王様の相談役でもあります」

「おおっ、貴女が例の噂の……」



レイナが名乗りを上げると周囲の人魚達がざわつき、この国の宰相であるジジはレイナに手を伸ばす。握手するつもりなのかとレイナも手を伸ばすと、彼はレイナに触れた瞬間、驚いた表情を浮かべる。



「こ、これは……!?」

「え?どうかしました?」

「い、いえ……失礼しました。いやはや、その年齢で素晴らしいお身体をお持ちのようですな」

「えっ……?」

「ちょっと、いくら国のお偉いさんでもセクハラ発言は止めてください!!レイナさんの身体が年齢の割には発育がいいからって!!」

「いや、リリスの方が大分失礼だよ!?」



ジジの言葉にリリスが注意すると、慌ててレイナが引き留める。そんな彼女の言葉にジジは苦笑いを浮かべて弁明を行う。



「いえ、そういう意味では……我々、人魚族は長く生きた者は不思議な力が芽生える事があります。私の場合、触れただけで相手がどれほどの魔力を持っているのか感知できます」

「魔力?でも、俺は魔法は使えませんけど……」

「何と!?それは何と惜しい……これほどの魔力、セリーヌ様にも匹敵されるというのに……」

「じょ、女王様に匹敵!?」

「何という人間だ……!!」



レイナの体内に女王に匹敵する程の魔力を感じ取ったというジジの言葉に人魚達は焦り、その一方でレイナは自分の身体に視線を向け、本当にそれだけの魔力を宿しているのかと不思議に思った。

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