第662話 人魚族からの謝罪
『レイナ様!!ここにおられますか?』
「ん?何ですか、騒がしいですね……」
「帝国の兵士さんかな?」
宿屋に宿泊中、レイナ達は今後の事を話し合っていると慌てた様子の兵士の声が響き、何事かと扉を開くと帝国兵が酷く焦った様子で立っていた。
「レイナ様!!大変でございます、先ほど港の方にレイナ様に会いたいと人魚族の御方が……」
「人魚族?」
「ああ、もしかして聖剣デュランダルの事じゃないですか?」
「あ、なるほど……分かりました。すぐに向かいます」
レイナは人魚族がどうして自分に会いに来たのかと疑問を抱いたが、リリスの言葉に納得した。先日、レイナは聖剣の盗難者ではないかと疑われた事を思い出し、面倒ではあるが会いに行く事にした――
――港の方では大勢の人間が集まり、彼等の視線の先には海に水柱を発生させてその上に佇む数名の人魚の姿が存在した。その中にはウオと呼ばれる男性の人魚も存在し、彼はレイナ達が訪れると即座に水柱を降りて下半身を二股に変化させると地上へ降り立つ。
先日は危うく戦闘になりかけた相手であるため、レイナは警戒気味に構えると彼はその場で膝を着き、恭しく頭を下げて出迎える。
「お待ちしておりました、レイナ様」
「えっ……?」
「女王様からレイナ様の事は国宝を取り返してくれた恩人として出迎えるように命じられました。どうか、今までの無礼をお許しください」
「恩人ですか……という事は誤解が解けたんですね?」
「はい、我が国で保管されている聖剣の存在は確認されました。そこで女王様は涙の指輪の奪還に協力してくれた皆様を我が国へ迎えたいと申しております」
ウオの対応にレイナは戸惑うが、どうやら先日の一件で人魚族はレイナの事を恩人として捉えたらしく、今日は彼等を迎えるために訪れたという。迎えに来たと言う事はこれから人魚族の住処にでも案内されるのかと思ったが、人魚族の住処は海底に存在するため、どうやって移動するのかが気になった。
「人魚の国へ連れていくつもりなら私達は泳げませんよ?」
「大丈夫です、我々に身を任せてください。我々の精霊魔法ならば人間の方でも水中でも陸地の様に動く事が出来ますので……」
「精霊魔法……」
「前にクラーケンを吹き飛ばしたあの魔法?」
レイナ達の記憶ではクラーケンが巨大な水柱で吹き飛ばされた事を思い出し、どうやら人魚族の精霊魔法は水を操る力があるらしい。とりあえずは人魚族の国へ向かう事をレイナ達は承諾すると、ウオは両手を構えて意識を集中させる。
「はあっ!!」
「うわっ……何?」
「何かが身体に纏ったような気分ですね……薄い膜のような物が身体中に張り付いている気がします」
「全身をスライムで飲み込まれた気分」
「ぷるぷるっ(飲み込まれた事あるの?)」
ウオの精霊魔法によってレイナ達の身体に薄い青色の魔力の膜のような物が張り巡らされ、試しにリリスは海面に手を伸ばすと、不思議な事に膜に弾かれるように海水は一定の距離から弾かれてしまう。
「おおっ、見てください!!全然濡れてませんよ、どうやらこの状態だと水を弾いて濡れる事はないみたいです!!」
「普通に物は触れる辺り、弾くのは水だけみたいだね」
「おおっ……」
「水中を移動する準備は整いました。それでは我々が連れてきたオオウミガメにお乗りください」
レイナ達に対してウオは海面を示すと、海中から巨大な亀の甲羅が出現し、甲羅の大きさだけでも5メートルは存在するのではないかいう程の巨大なウミガメが出現した。どうやら亀型の魔物らしく、岸部に移動するとレイナ達に乗るように促す。
亀の甲羅に乗せて海底に向かうなど、まるで竜宮城に向かう浦島太郎のような気分に陥りながらもレイナ達は乗り込む。仮にも人魚族の女王が迎えたいと言い出してきた以上は無視するわけにもいかず、案内されるがままに従うしかなかった。
「それでは出発します、途中で海の魔物共が襲ってくるかもしれませんが、我々が守りますのでご安心ください」
「あ、はい……」
「おおっ……まるで絵本の登場人物になったような気分ですね」
「意外と乗り心地がいい」
「ぷるぷるっ(よろしくな、カメさん)」
レイナ達が乗り込むのを確認すると人魚族の戦士の護衛の下、オオウミガメは海底へ向けて出発を行う。海中に向けてオオウミガメはゆっくりと沈み、レイナ達は精霊魔法のお陰で溺れる事もなく、海中の様子を伺う事が出来た。
「うわぁっ……これは凄いですね、やった事はないですけどダイビングとかする人はこういう気分なんですかね」
「そうかもね、あっ……なんかあっちの方で大きい魚が泳いでる」
「美味しそう……あれ、捕まえてきて」
「えっ!?は、はい……分かりました」
「こら、迷惑を掛けちゃ駄目でしょうがっ!!」
ネコミンの言葉に人魚族の戦士の一人が慌てて魚を捕まえに向かおうとしたが、それをレイナが叱りつけて止める。いくら客人として迎えられるといっても、あまりに調子に乗り過ぎるわけにはいかない。
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