第669話 救援要請

「……もしも仮に巨塔の大迷宮から現れた甲冑の巨人が、かつて大迷宮内で勇者に倒された剣の魔王の配下と同一人物だった場合、敵の正体は死霊使いでわざわざ砂漠から死体を引き上げて操った事になりますね」

「そんな馬鹿な……」

「だが、そう考えると辻褄は合う。セリーヌ殿の話によると始祖の魔王とやらを復活させようとしたのは死霊使い、その死霊使いが今度は剣の魔王の配下を復活させたとなれば……」

「恐らく、敵の狙いは剣の魔王の復活でしょうね」



リリスの言葉に全員が冷や汗を流し、そして先ほどの話題に上がった「白原」という場所を思い出す。かつて勇者が剣の魔王を打ち倒した場所として伝わり、この場所にて剣の魔王は敗れた。敵の狙いが剣の魔王の復活の場合、次の目的地はこの白原である可能性があった。



「剣の魔王が討たれた白原は何処に存在するの?」

「白原はここから北の領地、つまりはガーム将軍が収める地に存在します」

「北方領地の守備はガーム将軍に任せている。もしも敵が白原に向かっているとしたら、ガーム将軍に急いで連絡しなければ……」

「急報!!急報です!!」



突如として玉座の間に兵士が駆けつけ、本来ならば緊急の用事以外で勝手に玉座の間に乗り込む事は禁止されているのだが、駆けつけてきた兵士は顔色が青く、酷く焦った状態だった。その様子を見てリルは嫌な予感を抱きながらも尋ねる。



「何事だ?」

「き、北の領地から伝令兵が訪れました!!領地内に先日に巨塔の大迷宮に出現した「甲冑の巨人」が出現した模様です!!」

「何だと!?」

「現在はガーム将軍が対処しようとしていますが、甲冑の巨人以外にも複数の敵の存在が確認されています!!」

「複数の敵だと!?」



兵士の報告によると既に甲冑の巨人は北の領地に侵入し、暴れまわっているという。更に敵は甲冑の巨人だけではなく、他にも多数の存在が確認された。


死霊使いが使役しているのは甲冑の巨人だけだと思い込んでいたが、どうやらこの数日の間に甲冑の巨人以外の存在も配下に加えていたらしく、現在はガームが賊の討伐を試みている様子だが、兵士の様子を見ても苦戦している事が伺えた。



「ガーム将軍から王都の勇者様をすぐに派遣するようにと言付かっています!!どうか、勇者様の御力をお貸しください!!」

「リルさん!!」

「……仕方ない、白狼騎士団を派遣する!!指揮はチイに任せる、勇者レアと共に出発せよ!!」

「はっ!!」

「分かりました!!」



人前なのでリルも普段通りに接するわけにはいかず、女王らしく振舞う。一方で兵士の報告を聞いたリリスだけは何か不審に思ったのか、疑問を抱いた表情を浮かべる――






――すぐに王都内に存在する白狼騎士団の団員が集められると、レアとチイは準備を整えて北の領地に向かおうとした。準備を整えると、王城から出発しようとした時に見送りに訪れたリリスとティナが心配そうに声をかけた。



「御二人とも、気を付けて下さいね。敵は魔王を越える脅威かもしれません、油断しないでください」

「ああ、分かっている」

「私達も同行できればいいのですが……」

「敵の狙いが分からない以上、王都の守護はティナ達以外にいないんだよ」



今回の白狼騎士団の派遣はチイとレアのみで向かい、他の者達は王都の守護のために残る事が決まった。本来であればもう少し人数を加えるのが妥当なのだろうが、どうしてもリリスは気になる事があった。



「本当に二人とも気を付けて下さい……敵がわざわざ派手に暴れ回っている以上、レアさんを引き寄せる罠の可能性がありますからね」

「大丈夫だ、レアは私達が守る」

「その台詞、女の子に言われると複雑な気分なんだけど……」



チイの男前の発言にレアは頬を掻き、普通なら男の自分が他の者を守るという発言をするべきだと思う中、リリスは耳元に囁く。



「いざという時はあれを使ってくださいね。もう準備は出来てますから」

「分かってる、それにしても相変わらずリリスは凄い事を想いつくね」

「何を言ってんですか、その凄い事を実践できるレアさんが一番凄いんですよ」



リリスの言葉にレアは頷き、出発前に彼女に用意された者を背負う。今回のレアの荷物は万が一の場合を想定し、色々な道具が入った収納鞄を入れている。ちなみにこの収納鞄もレアが作り出した代物であり、外見は普通の鞄だが、どんな物も収める機能がある。


全ての準備を整えたチイは白狼騎士団を率いて出発し、その後にレアもシロに乗り込み、後に続く。その様子をリリスは見送ると、彼女は王城の方角へ振り返る。



「さてと……私もそろそろを完成させる必要がありますね」



レア達が不在の間、リリスも何もしないわけではなく、彼女は自分に出来る事をするために行動を開始した――

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