第659話 海竜

(どうですかレイナさん、海竜の奴を操れたりできますか?)

(やろうと思えばできるけど、なんか状態の項目が「洗脳」になってるんだよね。もしかしたら、あの指輪のせいかな?)

(じゃあ、あの指輪を奪い取れば海竜は操れる?)



海竜の詳細画面を確認した限り、現在の海竜は「洗脳」の状態である事が判明する。その理由は青髭が身に付けている「涙の指輪」と呼ばれる魔道具が関係している事は明白であり、あの指輪が青髭の手元にあるからこそ海竜は操られていると考えられた。


指輪を奪い取れば海竜の支配を奪えるかもしれないが、青髭は海竜の頭にしがみついているので盗むのは難しい。仮にレイナが文字変換の能力を利用して「洗脳」を「服従」に変化させればクロミンの時と同様に従える可能性もあるが、問題なのは「洗脳」という文字である。



(今の海竜は洗脳で操られているみたいだけど、仮にこの状態を変更させたとしても涙の指輪を使えば元に戻っちゃうのかな?)

(多分、そうなると思いますね。仮に「健康」や「服従」と打ち込んでも涙の指輪をまた使われれば「洗脳」の状態に戻るはずです)

(なら、あっちの男の人を操ればいいんじゃないの?)

(あ、なるほど……そっちの方が手っ取り早いか)



ネコミンの言葉にレイナは納得したように頷き、要は涙の指輪を所有する青髭をどうにかすればいい話だった。だが、人間を「服従」させた事は一度もなく、しかも相手が海賊となると流石に躊躇してしまう。



(魅了の能力を使った時みたいにあの人が俺に擦り寄ってきたらどうしよう……)

(大丈夫、その時は私達が守る)

(アリシアさん辺りが切り伏せそうですね……まあ、いざという時は私達が守りますよ)



レイナの言葉にネコミンとリリスはあんな男を支配下におく彼女に同情したように肩に手を置く。仕方なく、レイナは青髭に対して「解析」を発動させ、詳細画面を開こうとした。



「かいせ……」

「シャオオオッ!!」

「うおっ!?な、何だっ!?」



解析の能力をレイナが発動させようとした瞬間、唐突に海竜は動き出すと口を開き、岸部に存在するレイナ達に目掛けて襲い掛かる。その行動を確認したレイナは咄嗟にリリスの身体を掴むと、跳躍を行う。



「危ない!!」

「うわっ!?」

「クロミン!!」

「ぷるるんっ!?」



リリスを肩に担ぎ、ネコミンはクロミンを胸元に抱えた状態で飛びのくと、海竜はレイナ達が立っていた場所に顔面を突っ込み、この際に頭部にしがみついていた青髭は危うく落ちそうになる。


突如として攻撃を仕掛けてきた海竜に全員が驚くが、海竜は涎を垂らしながら岸部に存在する者達に視線を向け、真っ先に縄で捕まっている青髭の部下たちに目掛けて飛び掛かった。



「シャオオオオッ!!」

「えっ……ぎゃああっ!?」

「た、助けてぇっ!?」

「嫌だぁあああっ!!」

「ば、馬鹿!!止めろ、何してんだ!?」



自分の部下を唐突に襲い始めた海竜を青髭は必死に止めようとしたが、間に合わずに何人かが海竜の口元に飲み込まれてしまい、その光景を確認したセリーヌが驚愕の声を上げる。



「な、何てことを……自分の部下を殺すなんて!!」

「ち、違う!!こいつが勝手に……」

「まさか、飢餓状態!?長い間、眠っていたせいで餌を欲して暴走している!?」



休眠状態から無理やり起こされた海竜だったが、長い時を眠り過ぎていたせいか餌を欲しており、視界に入った生物へと襲い掛かる。必死に青髭は止めようとするが、涙の指輪を利用しても暴走状態に陥った海竜は止まらず、それどころか頭にしがみつく青髭を煩わしそうに頭を振って引き剥がす。



「アガァアアアッ……!!」

「うわっ、やめっ……ぎゃあああっ!?」

「そ、そんなっ!?」

「何てことをっ!!」



自らの主人さえも海竜は餌として判断し、丸呑みしてしまう。これによって海竜は涙の指輪を身に付けた青髭さえも飲み込んでしまい、これでは涙の指輪を回収する事は出来ない。それどころか海竜を抑えつける存在がいなくなり、見境なく暴れ始めた。



「シャオオオオッ!!」

「セリーヌ様、ここは危険です!!すぐに避難を!!」

「し、しかし……」

「涙の指輪は諦めるしかありません!!今は一刻も早く、この場を離れて……うわぁああああっ!?」

「ああっ!?そんなっ……!!」



セリーヌを守るために避難を促した人魚族の戦士にも海竜は襲い掛かり、その身体を丸呑みする。その様子を見ていた他の戦士達は何としてもセリーヌだけは守るため、彼女を庇うように取り囲む。


アリシアの方も兵士達が彼女を庇い、急いでこの場を離れるために船に避難させようとする。しかし、海竜は誰一人として逃すつもりはないらしく、長い胴体を利用してアリシア達が乗っていた船に尻尾を振り払う。



「シャオッ!!」

「ああっ!?ふ、船が……」

「そんな、マストが……これでは逃げられません!!」



海竜が振り払った尻尾は船のマストを破壊し、これでは船を動かす事は出来なかった。これによってアリシア達は脱出の手段を失ってしまい、逃げ場を失くす。

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