第658話 青髭の奥の手

「その指輪は我々の秘宝です!!すぐに返しなさい!!」

「断る!!こいつはもう俺の物だ!!」

「ちょっと、ちょっと!!状況を理解していないんですか?貴方のお仲間は捕まってるし、この島はもう人魚族で包囲されてるんですよ。逃げられると思ってるんですか?」

「ふん、そんな役立たず共なんてどうでもいい!!」

「お頭!?」

「ひ、酷い……あんまりだ!!」



青髭の船長はあっさりと部下を見捨てると、彼は自分の顎髭に吊り下げた指輪を摘まみ、見せびらかすように笑みを浮かべる。その様子を見てセリーヌはこめかみに青筋を浮かべ、大事な人魚族の秘宝を汚らしい顎髭に巻き付けている事に怒りを抱く。


海賊船の船首に移動した青髭に対してすぐに他の人間が捕まえようとするが、彼は何を考えたのか涙の指輪を摘まむと、何かを念じるように目を瞑りながら叫ぶ。



「よし、出てきやがれ!!」

「無駄です、クラーケンは私の配下が抑えつけています。いくら呼び寄せても来ませんよ」

「ふふんっ、クラーケンだと?あんな命令もまともに聞かない奴なんかはなから当てにしてねえっ!!」

「何ですって……!?」

「じゃあ、何を呼び出すつもりですか?」



涙の指輪を使えばクラーケンを呼び寄せる事が出来るのはレイナ達も聞いたが、そのクラーケンは現在は人魚族の戦士が抑えつけている。なので青髭には打つ手はないと思われたが、彼は何を思ったのか船首から飛び降りる。



「出て来い、海竜!!」

「何ですって!?」

「海竜!?」



青髭が叫びながら飛び降りると、海面から水飛沫が上がり、海中から大蛇のような生物が出現した。全身が青色の鱗で覆われ、顔面の部分は火竜や牙竜のように恐ろしい形相の生物が姿を現す。



「シャオオオオッ!!」

「おっとっと!?馬鹿、暴れるな!!俺が落ちるだろうが!!」

「か、海竜!?」

「嘘でしょう!?あの指輪、竜種も操る事が出来るんですか?」

「海竜?」



海竜と呼ばれる生物が出現した事で誰もが慌てふためく中、レイナは初めて見た竜種に興味を注ぎ、観察する。一方で海竜の頭部にしがみついた青髭は笑みを浮かべ、これで自分が優位に立ったと思い込んだのか笑い声を上げる。



「は〜はっはっはっ!!驚いただろう、こいつはな!!この島の中央に存在する湖の中で眠っていたんだ!!どうやら休眠状態だったようだが、この指輪を利用すると目を覚まして操る事が出来るんだよ!!」

「な、何てことを……!!」

「シャオオオオッ!!」



海竜は青髭を頭に乗せた状態のままレイナ達を見下ろし、鋭い眼光を見せつける。竜種の圧倒的な威圧感に誰もが怖気づき、アリシアも聖剣を引き抜くがその腕は震えていた。


海竜は海に生息する竜種であり、滅多に姿を現す事はない。恐ろしい外見をしているが意外な事に竜種でありながら比較的に大人しく、怒らせない限りは危害を加えることはない。しかし、海竜は定期的に休眠と呼ばれる長き眠りにつく事があり、その状態で無理やりに起こされた見境なく暴れ狂う。



「くっ……愚かな、竜種を人間如きが操れると思っているのですか!?」

「はっ!!偉そうにぬかすな、この指輪さえあればどんな海の生物も従えさせられる事は分かってるんだよ!!それにしてもまさか竜種させも操るとはな……流石は人魚族の秘宝だ!!」

「おのれっ!!」

「おっと、俺を殺せばこいつを抑制する事は出来ないぞ!?」



人魚族の戦士が槍を構えるが、その姿を見た青髭は慌てて止める。現在の海竜が襲わずに大人しくしているのは自分のお陰であり、もしも自分を殺せば海竜は見境なく暴れる事を告げる。



「さあ、俺の部下を解放して貰おうか!!お前等は全員人質だ!!たっぷり、帝国と人魚族から身代金をふんだくってやるぜ!!」

「くっ……調子に乗らないでください、そんな海竜如きに……!!」

「レイナ様、御力をお貸しください!!いくら海竜と言えど、聖剣使いが二人も居れば勝てないはずはありません!!」

「う〜んっ……」



レイナは海竜に視線を向け、既に「解析」の能力を発動させていた。その結果、特徴の項目を確認して難しい表情を浮かべる。



―――――海竜―――――


種族:上位竜種(幼体)


性別:雄


状態:洗脳


特徴:海に適応した竜種であり、成体の場合は「海龍」と呼ばれる。基本的に他の竜種とは異なり、滅多な事では他の生物を襲わない。普段は休眠状態であるため、肉体が餌を必要とした時のみに目を覚ます。十分な栄養分を摂取すると数か月は眠り続ける事ができる。普段は海底で生活する種だが、この個体は湖に卵が孵化して島に住み続けている


――――――――――――



画面に表示された文章を確認し、ここでレイナは海竜の正体を知る。

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