第657話 セリーヌの動揺
「嘘じゃないですよ。私達はケモノ王国から訪れた騎士です、理由があって帝国の船と造船技術を知るために訪れたんですよ」
「そ、それが事実だとしても……どうしてケモノ王国の騎士が我が国で管理されているデュランダルを所持しているのですか?」
「さっきから何を言ってるのか意味が分かりませんね。レイナさんが所持している聖剣は私達の国で手に入れた物ですよ。ねえ、二人とも?」
「う、うん……」
「嘘は言っていない」
「そ、そんな馬鹿なことがありますか!!その聖剣は紛れもなく我が国で管理しているデュランダルです!!」
リリスの言葉にセリーヌは激高するが、実際の所は彼女達の国で管理されているデュランダルと、レイナが所持しているデュランダルは別物である。このデュランダルはレイナが文字変換の能力で生み出した複製品であり、本物のデュランダルは未だに人魚族の国で管理されているはずだった。
「嘘だと言われても困りますね、疑うんだったら自分達の国に戻って確かめればいいじゃないですか」
「貴様、女王様に対してなんと無礼な……!!」
「無礼なのはどっちですか!!話をすり替えて誤魔化そうとしても無駄ですよ!!クラーケンのせいで帝国の人たちがどれだけ被害を受けたと思ってるんですか!!責任を有耶無耶にしようとしているのはそちらではないんですか!?」
セリーヌの取り巻きの人魚がリリスを黙らせようとするが、それに対してリリスも言い返す。その言葉を聞いて黙って聞いていたアリシアも頷き、話に割り込む。
「今日、我が港の軍船が一隻クラーケンによって沈められました。また、先々代の皇帝が設計された皇族専用の船も被害を受けています。この際、船に乗せていた陽光の天使像が奪われるという事態に陥っています。こちらの天使像は先々代の皇帝が自ら作り出された物、謂わば国宝です……この責任、どう取るつもりですか」
「そ、それはこの海賊たちの仕業で……」
「あれあれ、おかしいですね?本を正せば人魚族の秘宝とやらが海賊に奪われたせいでこんな事態を引き起こしたんですよね?海賊が盗み出した涙の指輪という物でクラーケンは操られ、帝国の船を襲い、国宝を奪ったんですよ。まさか、自分達も被害者だから責任はないとでも言い張るつもりですか?それにさっき、女王様は自分達に火があると言ったじゃないですか!!」
「くぅっ……」
「うわぁっ……」
「……リリスはこういう時だけ本当に頼りになる」
海賊が起こした問題とはいえ、責任の一端は海賊に涙の指輪とクラーケンを奪われた人魚族にもあり、その事を指摘すると人魚族も強くは出られない。
今回の事件の発端は人魚族が一介の海賊に人魚族の秘宝を奪われた事が原因であり、そもそも人魚族が海賊に大事な宝を奪われるという失態を起こさなければこんな事は起きなかった。その点に関してはセリーヌも理解しており、改めてきちんと謝罪する。
「た、確かに我々にも責任はあります。帝国がクラーケンによって奪われた財の一部は我々の方で保証しましょう」
「よろしくお願いいたします。最悪、軍船の場合はどうでもいいのです。お爺様の作り出した天使像さえ取り戻せれば……」
「その辺の話はこの海賊から聞きましょう。貴方達、天使像は何処にやったんですか?」
「天使像?ああ、あのクラーケンが持って来たデカい像か……」
「デカくて持ち運ぶのも難しそうだったから、あれなら海に沈めたとか船長が言っていたような……」
「そ、そんなっ!?」
「す、すぐに私の配下に探させます!!」
海賊たちの言葉にアリシアは頭を抑えて失神しかけるが、セリーヌは慌てて配下の人魚に命じさせ、この周辺一帯の海域を調べさせるように命令を下す。これで天使像は人魚族に任せる事に決め、次は隠れている青髭の船長を探す事だった。
「ねえ、君達の船長は何処に隠れているのか分からないの?」
「し、知らねえ!!あの人、逃げ足が速いからもうとっくに島を離れてるんじゃないのか?」
「そんなはずがありません、この島の周囲は既に我々が見張っています」
「船の中に隠れてるんじゃないですか?」
「もしかしたら洞窟の奥にある倉庫かも……」
船員たちも船長の居場所は知らないらしく、仕方なく隠れてしまった船長を探すために行動を開始する。これまでにクラーケンが奪い取ってきた荷物が収められた倉庫や、海賊船の捜索を行おうとした時、ここで船首の方から声が上がる。
「ははははっ!!俺はここだ!!」
「せ、船長!?」
「いつの間にあんな場所に……!?」
海賊船の船首に青髭の船長である男が立っていた。その姿を見たセリーヌは険しい表情を浮かべ、彼の顎髭にぶら下がっている指輪を見てすぐに彼女は「涙の指輪」だと気づく。
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