第656話 海賊の捕縛

「辿り着きました、この場所に我が人魚族の秘宝を盗み出した愚か者達がいるはずです」

「この島にこんな洞窟があったなんて……」

「確かにこの広さならば船も隠せますね……あ、見てください!!」



洞窟の中には既に船が停まっており、そこにはレイナに先ほど襲い掛かった人魚族のウオという名前の男が立っていた。ウオの傍には他にも数名の男の人魚が存在し、彼等は縄で縛りつけられた男達を取り囲んで槍を向けていた。



「ひいいっ!?ゆ、許してくれ!!」

「殺さないでっ!!」

「俺達は船長の命令に従っていただけなんだ!!」

「黙れ!!この虫けらがっ!!」

「止めろ、女王様の命令を忘れたか?無暗に殺すのは止めろと言われただろう」



どうやら捕まっている男達が船の乗組員らしく、格好から見ても明らかに海賊の風貌をしていた。どうやらレイナ達が駆けつける前に人魚族が彼等を捕まえたらしく、そこに船に乗ったレイナ達も向かう。


セリーヌが現れるとウオ達は跪くが、この際にウオはレイナを見て睨みつける。先ほどの戦闘の事を思い出したらしく、レイナも睨みつけてくるウオにむっとした表情を浮かべるが、セリーヌが間に割って入る。



「ウオ、その者達が我が人魚族の秘宝を盗み出した者達ですか?」

「その通りでございます。しかし、この男達の頭目はまだ捕まっていません。現在も捜索中ですが、すぐに見つけ出します」

「そうですか……涙の指輪は見つかりましたか」

「いえ、それがまだ……どうやら捜索中の頭目が隠し持っているようでございます」

「そう、ならばすぐに見つけ出しなさい」

「はっ!!」



ウオはセリーヌの言葉に従い、即座に洞窟内に隠れているはずの船長の捜索を行う。その様子を見届けたレイナ達は自分達はどうすればいいのかと尋ねようとした時、セリーヌは改めてレイナと向き合う。



「クラーケンを操作していたのはこの男達のようです。彼等は我が人魚族の秘宝である「涙の指輪」を利用し、我々の住処の守らせていた僕を奪って悪用していたようです」

「それはつまり、クラーケンを操っていたのはこの男達だから自分達に責任はないという事ですか?」

「いいえ、まさか……涙の指輪を奪われたのは私達の失態です。そして彼等が涙の指輪を利用し、クラーケンを利用して悪事を行った事に関しては謝罪しましょう」



意外とあっさりとセリーヌは自分達の否を認めると、その反応にレイナ達は意外に思う。だが、ここで彼女はレイナに視線を向けてデュランダルの件を問い質す。



「ですが、今回の一件とデュランダルの件は話は別です。どうしてそちらの御方は我が人魚族が勇者のために保管していたデュランダルを所持しているのか、それをお答えください」

「え、それは……」

「返答によっては我々はその聖剣をどんな手を使っても奪い返します。ここは海に囲まれた場所、貴方達に勝ち目はありませんよ」

「それは脅しではないですかっ!!」



セリーヌの言葉にアリシアは顔色は青ざめ、咄嗟にレイナを庇うように前に出た。一方でセリーヌの言葉を聞いていたリリスが反論を行う。



「ちょっと待ってくださいよ、ここには帝国の皇女であるアリシア様もいるんですよ。仮にアリシア様に手を出せば帝国も黙ってはいませんよ」

「お言葉ですが、帝国が陸地でどれほど勢力を築こうと、海を統べる我々には脅威にはなり得ません。その気になれば私達は帝国の港に存在する全ての船を沈める事も出来ます。我々の住処は海底、そこまで帝国が攻め入る術はあるとも思えません」

「なるほど、つまりは陸地の国の人間なんか恐れる必要もないという事ですか」

「そのように聞こえたのならばそう理解してくれて構いません」



最初の時からセリーヌを含め、人魚族はどうも陸地に暮らす人間達を見下している事は伺えた。仮にも世界一の大国であるはずの帝国さえも恐れるに足らぬ存在と言い切るほどの自信を持っており、実際に彼等はそれだけの力を持っているのは確かだった。


帝国がいくら船を作り出そうと人魚族ならば簡単に破壊し、そして彼等の住処である海底まで帝国の軍隊は攻め入る事が出来ない。港町を攻撃されれば帝国は海から得られる資源が入手できずに追い詰められる。それを理解した上でセリーヌは不遜の態度を貫く。



「さあ、お答えなさい。ヒトノ帝国の騎士がどうして我が国のデュランダルを所持しているのですか?」

「え?騎士?俺はヒトノ帝国の騎士じゃありませんけど……」

「何を馬鹿な事を……往生際が悪いですよ」

「嘘ではありません、その御方はケモノ王国から訪れたのです。帝国の騎士ではありません!!」

「……それは本当の話ですか?」



ケモノ王国の名前が出るとセリーヌの態度が代わり、彼女は戸惑いの表情を浮かべてレイナとアリシアを見渡す。彼女は皇女の傍に控えていたのでレイナ達の事を帝国の騎士だと勘違いしていたが、それをきっぱりと否定されて混乱する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る