第654話 涙の指輪
「ふうっ、どうにか戻ってこれた……うわっ!?何、この状況!?」
「あ、お帰りなさい」
「お疲れ様でした。いや、さっきは大変でしたね」
「いや、そんな家に戻ってきたように軽く出迎えないでください!!」
レイナが戻ってくるとネコミンとリリスが普通に出迎えるが、アリシアがツッコミを入れる。一方で人魚族の者達は突如として空から舞い降りてきたレイナに戸惑うが、彼女達はレイナが所有する大剣に視線を向け、動揺の表情を浮かべた。
「そ、その聖剣は……」
「馬鹿な、デュランダルだと!?」
「えっ……あれって、もしかして人魚!?」
人魚族を初めて見るレイナは彼女達の姿を見て驚き、一方で人魚族はレイナが聖剣デュランダルを所有している事に激しく動揺した。だが、すぐに先ほどから高圧的な態度を取る人魚族の男が目を細めると、唐突に彼の身体が変化を始めた。
「おのれ、人間め……我等が秘宝を盗み取ったか!!」
「なっ!?お辞めなさい、ウオ!!」
「な、何?」
「あれは……まさか、魚人形態ですか!?」
ウオと呼ばれた男性は全身に魚の鱗を生やすと、下半身が二股に分かれる。その外見は最早人間とは程遠く、魔物の姿に近い。その光景を見てリリスは驚きの声を上げると、ウオは三又の槍を手にした状態で甲板へと移動する。
レイナは自分に向かってくるウオを見て咄嗟に聖剣を引き抜くと、そんな彼に目掛けてウオは槍を突き刺す。金属音が鳴り響き、二人は刃を交わす。
「うおおおおっ!!」
「くっ、このっ……いきなり何するんですか!!」
「ぐふっ!?」
槍を突き刺そうとしてくるウオに対してレイナは大剣で弾くと、ウオは後退りながらも槍を構えなおし、今度は戦技を発動させて放つ。
「乱れ突き!!」
「……ここっ!!」
無数の突きを繰り出そうとしてきたウオに対してレイナは大剣を下から振りかざすと、槍を弾き返す。正確に放たれた槍を見極めて攻撃を弾いたレイナに人魚族は驚き、一方でレイナはウオの元へ向かうと首筋に大剣の刃を構えた。
「勝負有り、ですよね?」
「ぐうっ!?」
「つ、強い……」
「あのウオ様が子供扱いなんて……!?」
「信じられない、人間如きがここまでの力を……」
ウオが敗れた事で人魚族に動揺が広がり、その光景を目にしていたセリーヌも動揺する。その一方でウオは首元に刃を向けられた状態で徐々に肉体が戻り始め、下半身は二股のままの状態で冷や汗を流す。
状況は理解できないが、急に襲ってきた人魚族に対してレイナは警戒心を抱いていると、ここで人魚族の女王であるセリーヌはレイナが所持している大剣に視線を向け、ある疑問を抱く。
「その大剣は……ウオ、下がりなさい」
「せ、セリーヌ様……」
「部下の非礼をお詫びします……聖剣に選ばれた御方よ」
「……どういう意味ですか?」
レイナは聖剣を収めるとウオは悔し気な表情を浮かべながらも引き下がり、ここで水柱の上から見下ろしていたセリーヌも甲板へと移動を行う。但し、彼女の場合は人魚の姿を維持したまま降り立ち、すぐに他の者達はウオのように下半身を二股に変化させて降り立つ。
「改めて名乗らせてもらいます。私の名前は人魚族の女王、セリーヌと申します」
「人魚族?」
「海にしか生息する事が出来ないと言われる種族です。普段は滅多に人に関わる事はないと聞いてましたけど……」
「その娘の言う通りです。我々は滅多な事では人前に姿を現しません……しかし、我が僕のクラーケンが突如として姿を消し、捜索していた際に貴方達と交戦している所を見かけました」
「クラーケン?」
セリーヌの言葉にレイナは海面に浮かぶクラーケンに視線を向け、あのクラーケンが人魚族の僕という言葉に驚く。彼女達によれば自分達の僕のクラーケンが人間に襲われていた様に見えたという。
「……今から二か月ほど前、我々の住処の守らせていたクラーケンが突如として姿を消しました。しかも、我らが大事に管理していた人魚族の秘宝である涙の指輪も……」
「涙の指輪……?」
「人魚族の初代女王が作り出した宝石です。涙の指輪は人魚族の秘宝、それが盗まれただけではなく、クラーケンも姿を消してしまった……調査の結果、どうやらクラーケンはこの海域に存在する事を突き止め、連れ帰すために我々は現れたのです」
「その涙の指輪を奪った犯人の方は何か分かったんですか?」
「既に対処済みです。あの島に存在する海賊がどうやら私達の秘宝を盗み出したようです」
セリーヌはレイナ達が向かおうとしていた「シノ島」を指差し、既に彼女の配下の人魚族を向かわせているという。その話を聞き終えたレイナ達はクラーケンの正体が人魚族の僕だと知るが、同時に今度は聖剣デュランダルに関しての説明が行われた。
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