第653話 人魚族
「いたたっ……な、何が起きたんですか?」
「分かりません……あ、見てください!!クラーケンが浮かんでいます!!」
「レイナが倒したの……?」
軍船に乗り込んでいた者達も身体を痛めながらも起き上がり、いったい何が起きたのか戸惑う。甲板に立っていた者達はクラーケンが海面に浮かんだまま動かない事に気付き、レイナが倒してしまったのかと驚く。
「クラーケン、死んじゃったの?」
「さあ、ここからだと分かりませんね。でも、さっき水柱みたいな物を見たような……」
「あっ!?み、見てください!!また水柱が……!!」
アリシアの声にリリスとネコミンは振り返ると、軍船の前方にて多数の水柱が上がり、その光景を確認した者達は慌てて船首の方へと集まると、海から上がってきた水柱には人影のような物が確認できた。
「まさか、あれは……!?」
「もしかして……人魚族ですか!?」
船首に辿り着いたアリシアとリリスは驚愕の声を上げると、やがて姿を現したのは水柱の上には人間の上半身と魚のような鱗に覆われた下半身を持つ「人魚族」と呼ばれる人種が存在し、海から打ち上げられた水柱の上に座り込むように複数名の人魚族が現れる。
人魚族はエルフと同様に容姿端麗であり、その美貌に甲板の兵士達は見惚れてしまう。しかし、アリシアは唐突に現れた人魚族に対して戸惑い、リリスも警戒を行う。
「武器を収めるのだ、人の子らよ……お前達が前にしているのは人魚族の女王、セリーヌ様であられるぞ!!」
「に、人魚族の女王!?」
「セリーヌ……聞いた事がありますね、確か伝説の勇者と共に魔王と戦ったと言われる人魚の名前ですね」
現れた人魚の中には三又の槍を握りしめた男性の人魚も存在し、彼の傍には一際美しい顔立ちの女性の人魚が存在した。その男性の人魚の言葉を聞いたリリスは過去の文献を思い出し、かつて魔王が存在した時代に勇者に力を貸した人魚と同じ名前だと思い出す。
水柱を椅子代わりにして座り込んだ人魚たちはアリシア達を見下ろし、全員が武装していた。その様子を見てアリシアは警戒を解かずに前に出ると、聖剣を鞘に戻して話しかける。
「人魚族の女王様、私はヒトノ帝国の皇女であるアリシアと申します」
「アリシア……聞き覚えがあります。聖剣フラガラッハに選ばれた御方ですね」
「あの聖剣に……!?」
「あれが噂に聞く皇女か……」
アリシアが名乗り上げると人魚族に動揺が広がり、アリシアの名前は人魚族にも知れ渡っている様子だった。だが、彼女が帝国の皇女と知っても態度を変える事はなく、セリーヌはアリシアを見下ろしながら告げた。
「アリシア皇女、お聞きしたいことがあります。どうして貴女は我が僕であるクラーケンと戦っていたのですか?」
「僕……!?あのクラーケンは人魚族の配下だったというのですか?」
「先に質問したのは私です。さあ、答えなさい」
仮にも帝国の皇女に対してセリーヌは堂々とした態度で自分の質問に答えるように促すと、その不遜な態度に兵士達は流石に表情を険しくさせる者もいた。だが、仮にも人魚族の代表である女王に対して無礼な態度は取れず、アリシアも事を荒立てないように説明を行う。
「我が帝国が管理している海域であのクラーケンが突如として現れ、我々の船を沈め、我が国では国宝として扱っている天使像を奪い去りました。そのため、クラーケンを追跡していたところ、襲われて止む無く戦闘に陥りました」
「……帝国が管理する海域?おかしなことをいいますね、この海は全て人魚族の物です。貴方達は我々の領域に暮らすクラーケンを襲ったというのですか?」
アリシアの言葉を聞いて女王は表情をしかめ、意識を失ったクラーケンを見て少し不機嫌そうな表情を浮かべて言い返す。しかし、その言い分にはアリシアも黙っていられず、怒鳴りつけるように言い返す。
「……お言葉を返すようですが、そのクラーケンによって我が国の船ではなく、この海域に訪れた船も被害を受けています!!そのせいでどれだけの被害が生まれたとお思いですか!?もしもそのクラーケンが貴女達の管理する存在ならば、責任を取るのは貴女達の方ではないですか!!」
「それは……」
「口を慎め、人間如きが女王様に異論を申し立てるつもりか!!」
セリーヌはアリシアの言葉に言葉を詰まらせ、確かにアリシアの言葉にも一理あった。だが、話を聞いていた男性の人魚はアリシアに対して怒鳴りつけ、槍を向ける。
アリシアに槍を向けられた事で甲板の兵士達も剣を引き抜き、彼女を守るために前へ出る。その様子を見た他の人魚は武器を構え、一触即発の雰囲気に陥る。このままでは戦闘が始まりかねない状況に陥った時、船の上に衝撃波を利用して飛んできたレイナが降り立つ。
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