第649話 海賊「青髭」
「ああ、いや……えっと、あっちの島の方に船の影が見えたんだ。きっと、あの島に誰かが船を停めようとしてるよ」
「そ、それは本当ですか!?この距離から見えたのですか?」
「う、うん……」
「レイナさんは遠視の技能も持っていますし、それに私の双眼鏡は高性能ですからね」
レイナの咄嗟についた嘘にアリシアは驚愕するが、すぐにレイナの言葉で察したリリスがフォローを行う。敬愛するといっても過言ではないレイナの言葉ならばアリシアは疑う余地はなく、すぐに船員たちに命じた。
「シノ島へ向かいます!!舵を取りなさい!!」
「はっ!!」
「主舵、いっぱい!!」
船がシノ島へ向けて動き始め、レイナは双眼鏡越しに島の様子を伺い、詳細画面を開いたまま警戒を行う。その間にリリスはレイナの元へ近づき、情報共有を行う。
「何か分かりました?」
「海賊の青髭という奴等が島に存在する。しかも、クラーケンはシノ島の海底に住処があるらしい」
「青髭……聞いた事もありませんね」
「帝国の海賊なら知らなくても仕方ないんじゃない?」
「そうですね……でも、クラーケンのような化物を操る海賊がこれまで無名というのは気になりますね。海賊を捕まえた時は詳しく調べる必要がありますね」
「ぷるぷるっ(海水はしょっぱいから嫌い)」
「クロミン、海の水は嫌いみたい」
「今、その情報必要でした?」
レイナ達が話し込んでいる間にも船は旋回し、シノ島へ向けて直行する。この時にレイナ達は海賊船を探し出す事に成功したが、一方で島の海賊たちもレイナ達の乗る船の光景を取られていた――
「――なんだと!?帝国の軍船が近付いているだろ!?」
「は、はい!!間違いありません、ここへ向けて出発しています!!」
「くそっ、遂に気付かれたか……この一か月の間はバレなかったてのによ!!」
シノ島に存在する巨大な洞窟の中に一隻の船が停泊しており、その船の上には十数名の男達が存在した。その男達の中でドワーフのように顎髭を伸ばした男性が存在し、この男こそが海賊の船長だった。
名前の由来である「青髭」は男の顎髭には青色に光り輝く宝石を取りつけた指輪で巻き付けているからであり、男は指輪が落ちないように髭で結び付けていた。青色の宝石の指輪を取りつけている以外には特に特徴はない。
「くそっ、どうやって嗅ぎつけやがった!!まさか、クラーケンが尾行されていたのか!?」
「いや、流石にそれはないでしょう。移動の時も海の中に潜り込ませてましたし……」
「だが、クラーケンが戻ってきた途端に船が来たんだぞ!!これが無関係と言い切れるのか?」
「言われてみれば……」
船長の男は軍船が近付いているという言葉に焦りを抱き、彼は逃げるべきかそれとも戦うべきかを考える。いくら帝国の軍船と言えど、海の上ではクラーケンに敵う存在などいるはずもない。
だが、この海域でクラーケンを利用して軍船を沈めれば必ずや帝国も本格的に動き出し、今度は大軍を引き寄せてくる可能性もあった。そんな事態に陥ればクラーケンがいても安心は出来ず、自分達のような弱小海賊団はあっという間に殲滅されてしまう。
「くそっ、やっと安心して生活できる島を見つけたと思ったのに……野郎ども、すぐに出航だ!!ここはもう駄目だ、逃げるしかねえ!!」
「ええっ!?そんな……」
「ど、どうにかならないんですか!?」
「どうにもならねえよ!!運び出せるだけの宝を船に乗せて出発するぞ!!」
船員は船長の指示に従い、洞窟の中に隠していたクラーケンを利用して奪ってきた物資の回収を行う。クラーケンは帝国の軍船だけではなく、この海域に訪れる前から襲った商船などから奪った物資がこの場所に保管されていた。
――今から一か月ほど前、青髭はとある魔道具で海獣と恐れられるクラーケンを操る術を手に入れ、それを利用して彼は嵐の晩の日に危険を犯して船を出向させる。行先は青髭が昔から隠れ家として利用していたシノ島の洞窟を利用し、嵐の海もクラーケンの力を借りてどうにか乗り越え、帝国兵に気付かれる事もなく隠れ家へと辿り着く。
船を下手に出せば帝国の軍隊に気付かれる恐れがあるため、彼はクラーケンの力を利用して海域内に存在する船を襲わせ、自分達の必要な食料や財宝の物資を運び込ませる。
しかし、クラーケンが現れるという情報が広まってからはこの海域には船が近付かなくなり、船が通らなければ必要な物資も集められない。青髭の船員は大喰らいの人間ばかりのため、すぐに食料は尽きてしまう。
漁をして魚を取ろうにもクラーケンが傍にいるせいで魚は寄り付かず、この島には食べれそうな果物は生えておらず、動物も殆ど存在しない。そのため、船長は危険を承知でクラーケンを港町に送り込み、軍船の物資を奪うように命じた。
結果的にはこれは失敗に終わり、クラーケンは戻ってきたが持って帰ったのは武器や防具が詰められた荷箱と、何処から持って来たのか分からない天使像だった。結局は食料は手に入らず、しかも軍船が船に近付いているという事に青髭の船長は嘆かずにはいられなかった。
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