第645話 クラーケンの襲撃
「うわわわっ!?」
「にゃうっ!?」
「ちょ、落ちる!!これ、落ちますって!!」
船が大きく傾いた事でレイナ達は危うく落ちかけるが、落ちる寸前にレイナは「握力」の技能を利用して手すりに掴まり、ネコミンとリリスはレイナの両足にしがみつく。この状況で落ちたら無事では済まず、海中にはクラーケンの本体が潜んでいる。
クラーケンの触手は船の船首に存在する天使の像と、帆に触手を絡める。それを見たレイナはどうにか解析の能力を発動しようとしたが、この状況では詳細画面を開く事は出来ても指を使えない。つまり、文字変換でどうにか出来る状況ではなかった。
「リリス、早く怪しい薬で何とかして!!」
「ちょっと、人が何時も怪しい薬を持っているとか思わないでください!!だいたい今日は帝国へ訪問するだけなんだから持ってきてなんて……あっ、でもポーチの中に何か入ってるかも」
「いや、持ってんのかい!!」
ネコミンの言葉にリリスは憤慨したが、すぐに何かを思い出したように彼女は自分のポーチに手を伸ばすと、赤色の粉末が入った硝子瓶があった。
「そうだ、実験用の素材として火属性の魔石を粉末状にまで磨り潰した奴がありました。これに火を灯して投げつければ爆発しますよ」
「威力は!?」
「あの触手を吹き飛ばす程度の火力はあるはずです!!」
「なら、早く寄越して!!」
レイナは片手で手すりを掴みながら手を伸ばすと、リリスに手を伸ばす。彼女はどうにか薬瓶の蓋を開き、入口部分にハンカチを押し込むと、マッチを取り出す。マッチでハンカチに火を灯すと、簡単な火炎瓶を作り出す
「レイナさん、3秒後にこれをあの触手に投げてください!!」
「分かった!!」
ハンカチに灯した炎が薬瓶に入った粉末に触れるまでの時間を計算し、リリスはレイナに渡す、彼女言う通りにレイナは3秒待ってから火炎瓶を投げ飛ばす。
「いっけぇっ!!」
『ッ……!?』
船首に絡みついていた触手に火炎瓶が投げ込まれると、触手の傍で爆発を引き起こし、爆炎が触手へと襲い掛かる。海中に潜んでいたクラーケンは慌てて触手を引っ込めるが、威力が大きすぎて船首に存在した天使の像も一緒に海に落ちてしまう。
触手が海中に引っ込むと、帆に纏わりついていた方の触手も外れ、傾いていた元へ戻る。この際にレイナ達は危うく落ちかけたが、どうにか耐え凌ぐ。一方で触手の一つを焼かれたクラーケンは悲鳴を上げ、会場へ姿を現す。
『ジュラァアアッ!?』
「うわ、出てきましたよ!!」
「あれがクラーケン……本当にデカいイカ、中々イカすな格好をしている」
「ダジャレを言っている場合じゃないでしょ!?」
レイナは二人に足を掴まれた状態でどうにか船の上に戻ると、触手の1つが炎に焼かれたクラーケンは悲鳴を上げ、先ほど船首から落ちてきた天使の像を別の触手に絡みつくと、再び水中に潜り込む。
『ジュラララッ……!!』
「あ、逃げた!?」
「あの像、持っていかれた……」
「くそっ……何だったんだ?」
攻撃されたにもかかわらずにクラーケンはレイナ達に襲い掛からず、天使の像を奪って逃げ込む。この時にレイナはクラーケンの触手を見てある事に気付き、どうやら天使の像以外にもクラーケンは木箱のような物を抱えている事に気付く。
「あれは……?」
「皆さん、無事ですか!?」
レイナが疑問を抱いたとき、慌てて戻ってきたアリシアが声を上げ、彼女は急いで船へと移動する。この時にアリシアはレイナ達の無事を確かめて安堵するが、すぐに船首から天使の像が引き剥がされている事に気付き、愕然とした。
「そ、そんな……陽光の天使像が!?」
「陽光?」
「この世界には陽光教という宗教が存在します。陽光教が崇拝しているのが「陽光の天使」と呼ばれている天使なんですが……」
「……そういえば帝国は陽光教が主流のはず」
アリシアは船首に存在した「陽光の天使」を模した像が存在しない事に膝を崩し、衝撃を受けた表情を浮かべる。どうやらこの国の宗教で信仰対象にしている天使像が奪われてしまったらしく、他の兵士達も嘆き悲しむ。
この船が作り出された時、陽光の天使の加護があるようにと用意された像だったのだが、それが失ってしまった事にアリシアは涙を流す。彼女にとっては今は亡き祖父が作り出した船の象徴の証といっても過言ではなく、そんな彼女にレイナ達は声をかける事が出来なかった。
「申し訳ございません、お爺様……貴方が残してくれた天使像を守り切る事が出来ませんでした……」
「ああ、天使像が……」
「何てことだ、何十年もこの船を守り続けた守り神が……」
「「「…………」」」
アリシアと兵士達が嘆き悲しむ姿にレイナ達は何とも言えない表情を浮かべ、クラーケンを追い払うためとはいえ、自分達が火炎瓶を投げつけたせいで船首に存在した天使像は海に落ちてしまい、それをクラーケンが奪ってしまったので罪悪感を抱く。
※陽光の天使像「溶けるかと思った(´;ω;`)」
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