第643話 帝国の港

――新しい飛行船の開発のため、とりあえずはレア達は帝国へ適当な用事を作り出して訪問すると、皇帝に船を見せて欲しい事を告げる。表向きは今後はケモノ王国も海路を利用しての交易を計画していると話すと、快く承諾してくれた。


実は大陸内でも海に面している国はヒトノ帝国とケモノ王国以外では一国しか存在しない。しかもその国はケモノ王国とは大陸の反対側に存在する位置のため、海路を利用して貿易は難しい。だからこそヒトノ帝国はケモノ王国が今以上に帝国との交友を望んでいると考え、あっさりと帝都から一番近い港町にまで案内する。



「ここが帝国が保有する港の中でも最も船が多い街です」

「なるほど、流石は帝国ですね。立派な船ばかりです」

「中々格好いいでござるな!!」

「うわぁっ……こんなに大きな船、初めて見た」




今回は港町に赴いたのはリリス、ハンゾウ、そして女性に変化したレイナであった。勇者の姿で赴くと帰還しようとするたびに皇帝が引き留め、盛大な宴を行おうとするため、今回は白狼騎士団のレイナとして赴いていた。


皇帝の狙いはレアを自国へ帰属させるためであり、先日の一件もあって勇者の中で最も優れた能力を持つのは解析の勇者であると彼は考えていた。だからこそ勇者が帝都へ赴いたときは丁重に扱い、ケモノ王国からヒトノ帝国へ帰属させようとする。それが面倒なので今回はレイナの姿で赴いたのだが、ここで予想外の出来事が発生する。



「どうですか、白狼騎士団の皆様。私達の船は気に入られましたか?」

「アリシア姫様……」



今回の港町の案内役はアリシアが勤め、彼女はレイナの正体がレアである事を薄々と勘付いてはいた。そのせいかレイナに対してアリシアは距離が近く、腕を組む。そんな彼女にネコミンは対抗心を抱き、レイナの反対側の腕を組む。



「姫様、レイナと距離が近い」

「そ、そうでしょうか?私は普通に接しているつもりですが……」

「はいはい、喧嘩しないでください。それじゃあ、船を回りますよ」

「二人とも、歩きにくいよ……」



男の姿で抱き着かれていたら美少女二人に腕を組まれて喜んでいたかもしれないが、現在のレイナは女性なのでアリシアとネコミンに抱き着かれても困る。二人の胸の感触が腕に広がるが、女性時の時はどうも精神的にも女性に近くなるらしく、あまり嬉しいとは思えない。


周囲の人間からみれば見目麗しい3人の美少女が仲良く歩いているようにしか見えず、中にはその光景を見てにやにやと笑みを浮かべる男性もいた。仮にレアの状態ならば嫉妬の視線を向けてくる者が多数いただろうが、今のレイナも美少女と言っても過言ではなく、男達は囁き合う。



「なあ、アリシア姫様いつもより可愛くないか」

「ああ、なんというか乙女の表情だな……普段は凛々しくて格好いいのに」

「あの猫耳の女の子も可愛いな」

「黒髪の子も良い身体してるよな」

「俺は一人だけ離れて歩いている子も可愛いと思うけどな」



男性の兵士達の話し声はレイナの耳にも届き、どうも女性の姿で居る時は他の男達がこのような反応する事が多い。元々レイナは男性の姿の時から女性のように整った顔立ちであり、モデルを務めていた事がある母親の影響か女性の姿になると増々顔立ちが綺麗になってしまう。



(男の姿でも面倒だけど、こっちの姿も色々と面倒だな)



溜息を吐きながらもレイナはリリスの後に続き、とりあえずは港町に停泊している全ての大船の確認を行う。この際にしっかりと船の名前は覚えて置き、忘れないように記憶に刻む。



「船に乗った時、やっぱり魔物に襲われたりもしますか」

「ええ、といっても滅多に襲ってくる事はありません。船には魔除けの石も搭載されていますし、それに襲ってきた場合は船に動員させている魔導士が対処を行います」

「へえ、詳しいんですね。姫様も船に乗った事があるんですか?」

「はい、年に何度かあります。この港町から少し離れた場所に島が存在します。その島は観光地として人気で他国から訪れる方も多く、陛下も気に入られて毎年よく訪れています」

「あ、それは聞いた事がありますよ。確か、名前はワイーハという島ですよね。暑い時期に特に観光客が訪れるという島ですね」

「ワイーハ……」



妙に地球の「ハワイ」を連想させる名前の島にレイナは何とも言えない表情を浮かべるが、どうやら他国にも知られるほどの有名な観光地らしく、わざわざワイーハへ訪れるために何か月も旅をして訪れる人間がいるほどに有名な観光地だという。


現在の時期は訪れる人間は少ないが、この時期からでも遠方の国の人間はワイーハへ向かう者も多く、皇帝もこの観光地は非常に気に入っているらしく、娘のアリシアを連れてよく訪れるらしい。

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