第642話 飛行船の再開発計画

――帝国からレア達は帰還すると、早速ではあるが次の飛行船の製造へ向けての計画が話し合われる。将来的に考えても飛行船は作り出さなければならず、飛行船が存在すれば他国へ赴く時にケモノ王国を取り囲む険しい山脈を飛び越えて安全に移動できる。


現在のケモノ王国は薬草と食料の大量生産に成功し、これらを利用して帝国以外との国との交易も考えていた。そうなると飛行船が最も安全に移動できる乗り物のため、再開発のために話し合いを行うが現状では材料も人手も時間も不足していた。



「やっぱり、現段階では飛行船の開発は難しいですね……今は優先させるのは王都の復興ですからね」

「復興作業は今の所は順調に進んではいるが、それでも年内に終わるとは考えにくいな」

「レアの能力で飛行船は作れないの?」

「前も言ったけど、俺の能力は実在する物しか作り出せないんだよ。前の飛行船は完成前に壊れちゃったから、多分だけど作り出せないと思う」



レアの文字変換の能力で作り変える物体は現実に存在する物でなければならず、以前に作り出した飛行船は完成する前に破壊された。但し、完成した飛行船が実在するのであればレアの能力で作り出せるはずである。



「飛行船の開発は別に急ぐ必要はないんじゃないのか?」

「そういうわけにはいきませんよ。帝国からの支援が復活したといっても、他国の間ではケモノ王国はヒトノ帝国の属国扱いなんです。山脈に取り囲まれているが故にケモノ王国は今までは帝国以外との他国とは親交を結ぶことが出来ませんでしたからね」

「確かにそれはまずいな……ケモノ王国はヒトノ帝国はあくまでも同盟国、対等な立場だ。それを他国に知らせるためにはやはり何らかの形で接するしかないか」



ヒトノ帝国以外の国家と友好関係を築かなければならない理由はいくつか存在し、王国と帝国の関係が従属ではなく、あくまでも対等な立場である事を示す。そのためには飛行船が必要不可欠だった。


ケモノ王国は険しい山脈に取り囲まれた国家のため、隣国の帝国以外との国家とは殆ど関わる機会がなかった。それだけに他国ではケモノ王国は国として認められていない節があり、所詮はヒトノ帝国の従属国と思われている。



「そうだ、転移台をレアの能力で作り出して貰うのはどうだ?それを各国へ送り込むというのは……」

「その方法も正直に考えましたが、転移台は危険な代物です。遠方に存在する人間を一瞬で転移させる道具ですからね。もしも転移台に他国からの暗殺者が送り込まれた場合、どうするつもりですか?」

「えっ……」

「今の段階でも帝国から送り込まれる人材の中にはケモノ王国の内情を探ろうとする人間もいました。不用意に転移台を各国へ送り込み、他の人間が容易く国内へ移動できる環境を作り出すのは危険ですよ」

「……確かにリリスの言う通りだ」



帝国に転移台を送り込んだのはケモノ王国との交易の再開のため、止む無く送り出した。もしも他の国に転移台を送り込んだ場合、転移台から訪れた者の中に間者や暗殺者が含まれていた場合を想定し、転移台に頼るのは危険過ぎた。



「今の段階ではレアさんがこの国にいるお陰で怪しい人物を見抜く事は出来ます。だけど、もしもレアさんが理由があって国内から離れる事態に陥った場合、私達では転移台から送り込まれる人間が何者なのかを調べる事は出来ませんよ」

「そ、そうだな……浅はかな考えだった」

「拙者たち、レア殿に頼り過ぎていたでござる」

「何にせよ、飛行船の開発は必ず必要な事です。ですけど、今のケモノ王国にはそんな余裕はない……世知辛いですね」

「ふむ……」



飛行船が将来的には必要な乗り物である事は間違いないが、前回の飛行船を開発する時も相当な時間が掛かった。しかも今は飛行船の開発に回せる人材もおらず、どうしようもないかと思われた時、ここである者が提案を行う。



「……飛行船を一から開発しなくても、普通の船を飛行船に改造する事は出来ないの?」

「え?船を?」

「なるほど、一から作り出すのではなく、改造ですか……ですけど、ケモノ王国の港に存在する船は小さいのばっかりですからね」



ネコミンの言葉にリリスは一瞬考えるが、生憎とケモノ王国には大船は存在しない。猟師が扱うような小さな船程度しか保有していない。しかし、そんな彼女にネコミンは言葉を続ける。



「私達の国にはなくても、帝国には存在するかもしれない。帝国から船を渡して貰ったらどう?」

『…………』



その手があったかと全員が驚いた表情を浮かべ、確かに大国であるヒトノ帝国ならば大船を所有していてもおかしくはなく、早速ではあるがレア達は帝国へと移動して準備に取り掛かった――

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