後日談 《皇帝の嘆き》
――レア達が訪問した晩、皇帝は自室にて女性の使用人に酒を注がせ、既に机の上には空の瓶が並んでいた。しかし、いくら飲もうと彼は酔う気になれなかった。
「何という強さだ……あれが、あの時の勇者だというのか」
「皇帝陛下、飲み過ぎです。もう辞めた方が……」
「いいから注げ!!こんな量では酔う事も出来ん!!」
先ほどから酒を飲む事を止めない皇帝に使用人は心配した風に声をかけるが、皇帝はどれだけの酒を飲もうと落ち着く事が出来なかった。
よりにもよって自分達の国が召喚された勇者をケモノ王国が迎え入れただけではなく、4人の勇者の中で最も貧弱だと思われた勇者こそが途轍もない力を隠していたのだから嘆くのも仕方がない。
「こんな事になるのならばやはりウサンの言葉など信じず、もう少しあの勇者を優遇していればこんな事には……いや、今更そのような事を言っても仕方がないか」
「陛下……」
「もう一杯、寄越せ」
ウサンを重用し、彼に勇者の世話を任せていたせいでこのような事態に陥った事に皇帝は深く後悔し、今から出も解析の勇者を引き込む手はないのかと考える。だが、ケモノ王国が持ち込んだ「転移台」によって勇者と接触するのも難しかった。
仮にレアが使者として帝国へ訪れれば彼を歓迎し、場合によっては夜の間に見目麗しい女性を送り込む事も出来た。しかし、転移台によってケモノ王国とヒトノ帝国の出入りが一瞬で済む以上、勇者がこの地に留まる理由はない。用事を終えればケモノ王国に引き返してしまう。
「あの勇者がこの国に残ればどれだけ国のために貢献してくれたか……駄目だな、今日はもう眠るぞ。お前はもう下がっていい」
「はっ……分かりました。陛下」
女性の使用人に下がるように促すと、皇帝は立ち上がって自分のベッドに戻ろうとした。だが、飲み過ぎた影響なのか急に足元がふらつき、その様子に気付いた使用人が身体を抑える。
「陛下!!大丈夫ですか?」
「あ、ああ……すまんな、力を貸してくれるか?」
「勿論です」
使用人は陛下をベッドに運び込むと、彼を横にさせる。皇帝は横になった途端に異様な睡魔に襲われ、使用人に部屋を出て行くように促した。
「もう大丈夫だ……助かったぞ、もう下がってくれ」
「はっ……おやすみなさいませ、皇帝陛下」
皇帝の言葉に使用人は恭しく頭を下げると、彼女は机の上に置かれた空の酒瓶に視線を向け、意味深な笑みを浮かべた。皇帝が完全に眠った事を確認すると、女性はグラスにワインを注ぎ込み、まるで血の様に真っ赤な酒を口元に含む。
「はあっ……中々悪く無いわね、流石は皇帝陛下」
飲み残しとはいえ、皇帝が用意した酒を飲むなど本来であれば重罪なのだが、女性の使用人は眠りこけた皇帝を見て笑みを浮かべ、しばらくの間は起きる様子がない事を確認する。
彼女は机の上の酒瓶を片付けると、部屋から去り際に皇帝に視線を向け、笑顔を浮かべながら呟く。
「おやすみなさい、人形さん」
一言だけ告げると女性の使用人は扉を閉め、皇帝は苦しそうな呻き声を上げた――
※明日から本編です
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