後日談 《解析の勇者の偉業》
「いや~本当にうちの勇者様は凄い人ですよ?窮地に陥っていたリル王女を救い出し、魔王軍と繋がって国の転覆を計った大臣を捕まえ、更には巨塔の大迷宮の完全攻略を成し遂げたり、遂には魔王軍幹部のアルドラ、ナナシを倒し、最終的には魔王を聖剣エクスカリバーで打ち倒したんですからね」
「な、なんとっ……」
「勇者様のお陰で我が国は救われました。そして今後も勇者様は我が国のために戦う事を約束してくれています」
「そう、ですか……」
解析の勇者の功績を聞かされた皇帝は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、アリシアも微妙な顔を浮かべる。帝国としてはまさか姿を消した勇者がここまでの大活躍を行うとは思いもよらず、皇帝は内心で嘆く。
(おのれ、ウサンめ……奴さえいなければ解析の勇者を手元に残す事が出来たというのに!!)
ウサンの勝手な勘違いと彼の暴走で解析の勇者は帝国を離れるしかなく、今更帝国へ戻ってこいなどとは言い出せるはずもない。以前に帝国は使者を派遣して勇者の返還を求めたが、ケモノ王国は勇者を手放すはずがない。
ケモノ王国に魔王軍を壊滅させるほどの力を持つ解析の勇者が存在する限り、帝国側もケモノ王国に関しては慎重に対応しなければならない。リリスとチイはケモノ王国は決して帝国の属国などではなく、両国は対等である事を示すように堂々とした態度を貫く。
「それでは話に戻しますが、近年の薬草の輸入の不足分を用意しました。どうかご確認ください」
「分かりました。では確認させてもらいます」
使者として同行していた騎士達が木箱を差し出すと、すぐに兵士達が中身を調べ、数年分の薬草の不足分がある事を確認した。ここ近年ではケモノ王国は輸出する薬草の量を減らしていたが、その不足分を全て用意してきた。
「これはなんと見事な……今までに見た事もない種類の物も含まれています!!」
「そちらの森の民の協力を得て入手した貴重な薬草です。栽培方法が難しいのであまり量は揃えられませんが、その回復効果は従来の薬草の数倍です」
「な、なんと!?それは真か?」
「ちなみにこちらは最近うちの方で開発したばかりの回復薬です」
「か、開発……?」
「あ、間違えました。調合です」
リリスは小さな木箱を取り出してアリシアに確認させると、彼女は中に入っている薬瓶を見て驚く。帝国で流通している回復薬よりも色合いが濃く、それでいながら独特の煌めきを放っていた。
「こちらは私が作り出した上級回復薬です。従来の回復薬よりも回復速度と効果が高いですよ」
「こ、これはどのように作ったのですか?」
「生産方法までは説明は出来ません。この薬を作り出すのに我々も苦労しましたからね」
上級回復薬という言葉にアリシアは動揺を隠せず、どのような方法で作り出したのかを尋ねる。だが、その答えに関してはリリスもはっきりと断り、アリシアも自分が馬鹿なことを聞いた事を悟って頬を赤くする。
従来の回復薬よりも効果の高い薬の生産方法を他国に簡単に漏らすはずがなく、上級回復薬の入った木箱は一応は受け取っておく。後で国の薬剤師を集めて回復薬を分析し、どのような原材料が使われているのか調べられるだろうが、生憎と上級回復薬の生産方法の素材の中には帝国では入手できない植物もあるため、この国では生産する事は不可能である事をリリスは知っていた。
「我々が用意できるのは薬草と従来の回復薬よりも効果の高い上級回復薬です。これらは全てお渡ししますので帝国の方からは人材の派遣をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「う、ううむ……話は分かった。だが、人材の派遣といわれてもそれは難しいのではないか?」
「それはどういう意味でしょうか?取引の内容に不満があると?」
皇帝の言葉にリリスはわざとらしく聞き返すと、皇帝はどのように答えるべきか悩み、アリシアに助けを求めるように視線を向けた。そこで皇帝の代わりにアリシアは理由を説明する。
「ケモノ王国の使者の方も知っていると思いますが、帝国と王国の間には山脈が存在します。人材を派遣するとしても帝都から王都まで辿り着くのに一か月近くの月日を費やさねばなりません。こちらも王国の方の要求を呑みたいのは山々ですが、人材を選抜する時間を考慮しても時間が掛かるかと……」
「大丈夫です、それを想定して私達も手を打っています。山脈を越えずとも、ケモノ王国へ辿り着ける方法はあります」
「それはまさか、あの牙竜の亜種の事を言っているのかい?」
ここで今まで会話に参加していなかったミームが驚いた表情を浮かべ、まさか王国の使者をここまで運んだ牙竜の亜種(クロミン)を利用して人材を帝国から王国へ移動させるつもりなのかを問う。
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