後日談 《転移台の利用法》

「いいえ、まさか……あの魔物を利用すれば確かに牙路を通り抜ける事は出来ますが、絶対に安全とは言い切れません。しかし、先日に我々は魔王軍から奪取した特殊な魔道具を持ってきました」

「特殊な、魔道具?」

「名前は転移台と呼ばれる代物です。どうぞ、ご確認ください」



チイが手を叩くと、すぐに同行していた騎士達は布に包まれた台座を運び込み、皇帝の前に晒す。皇帝と他の者達は魔法陣が刻まれた台座を見て訝し気な表情を浮かべるが、すぐにアリシアは魔道具の説明を乞う。



「こ、これはなんでしょうか?見た所、台座のようですが……」

「こちらは転移台と呼ばれる特別な魔道具です。論より証拠、今ここで使用してその性能を見せた方がいいかもしれません」

「使用する?この場で?」



リリスは転移台に移動すると、全員が緊張した面持ちで彼女の様子を伺い、転移台に嵌め込まれている魔石に彼女は掌を翳すと、転移台の魔法陣が光り輝き、やがて光の柱と化す。


唐突に発光した転移台に全員が目を眩むが、直後に光の柱の中から人影が現れ、やがて光が収まるとそこには思いもよらぬ2名の人物が立っていた。



「ふうっ……びっくりした」

「なるほど、転移の感覚はやはり大迷宮の転移魔法陣と一緒か……」

「お、お主達は!?」

「リル!?それにレア様も……!?」

「ええっ!?」



転移魔法陣が光り輝いた瞬間、台座の上にはリルとレアの姿が存在し、二人の登場に誰もが驚く。先ほどまでは存在しなかったはずの二人がいた事に動揺を隠せず、特にアリシアは親友と想い人が急に現れて慌てふためく。



「ど、どうして御二人がここに……まさか、転移!?」

「久しぶりだな、アリシア……皇帝陛下も先日の薬草の取引以来ですね」

「おっ、おおっ……これはこれは、まさかケモノ王国の女王が直々に訪れるとは驚いたぞ」



リルが転移台から下りて頭を下げると、皇帝も流石に玉座に座ってはいられず、彼女の元へ移動して握手を行う。両国の代表同士がこんな形で対面するなど思いもよらず、場に緊張が走った。そんな中、リリスは若干自慢げに転移台を叩きながら説明する。



「どうですか、皆さん?この転移台は遥か遠方のケモノ王国の王都にいるリル女王と勇者レアさんを転移させました。この転移台を利用すればどんなに遠方に離れている人物でも呼び寄せる事が出来ます」

「な、なんと……」

「皇帝陛下、こちらの転移台は貴国に差し上げましょう。両国の親交のため、この転移台は必要になるでしょうし……今後は決められた日時と時間を相談し、定期的にこうして顔を合わせて両国の発展のために相談しあうのはどうでしょうか?」



驚き戸惑う皇帝に対してリルは笑みを浮かべて転移台を差し出す事を告げると、皇帝はとんでもない魔道具をあっさりと寄越す彼女の余裕に戦慄する。




――この転移台を利用すれば一瞬でケモノ王国とヒトノ帝国を行き来する事が出来る。それが意味するのは今後は薬草の取引の際は危険を犯して山脈を乗り越える必要はなくなり、使者を往復させる必要もない。更に言えば帝国の人材を一瞬でケモノ王国に送り込む事が出来る。


帝国としてはこれまで通りに薬草を得られるだけではなく、時と場合によってはケモノ王国に赴き、色々と相談も出来る。反面にケモノ王国にとっても帝国の豊富な人材を得られる。転移台を利用すればこれまで以上に両国の関係が改善できると予想された。


だが、逆に言えば転移台を利用すれば瞬時に両国へ移動するが出来るため、もしも良からぬ事を企んだ人間が転移する場合を想定し、転移台の使用は半月に一度、普段は地下の倉庫で収めることが決まる。




こうして転移台を利用してケモノ王国は薬草と上級回復薬を引きかえに帝国から有能な人材を派遣してもらい、復興を急ぐ。また、今回の一件でレアも自由に帝国に戻れるようになったため、久しぶりに勇者同士で再会を喜び合う。

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