後日談 《交渉》
「アリシア様、私達が本日訪れた理由は帝国と毎年行っている薬草の取引の条件の変更です」
「薬草、ですか……具体的にはどのように変更したいのですか?」
薬草という言葉にアリシアは反応し、帝国で流通されている薬草はケモノ王国から輸入された物である。一応は帝国でも薬草の栽培は行っているが、土地に問題があるのかケモノ王国と比べても質が悪く、生産量も少なかった。
広大な土地を保有する帝国ではあるが、薬草を育てられる環境を満たした場所は非常に少なく、これまではケモノ王国が食料不足に陥っていたので食料と引き換えに薬草を入手していた。
「先日、我が国では森の民と和解し、彼等から新たな数種類の薬草と育成法を教わりました。そのお陰で今年の薬草の収穫量は去年の倍以上を確保できると予測されます」
「おおっ!?それは真か!!では、我が国へ献上する薬草の量も増えるという事か!!」
話の途中で皇帝が割込み、彼はケモノ王国で大量の薬草の生産に成功したと聞いて喜ぶ。これまではケモノ王国とは色々とあって一時期は閉鎖していた事もあったが、やはりケモノ王国産の薬草でなければ上質な回復薬は作り出せず、不満を漏らす者も多かった。そのせいで皇帝は非難を被る。
しかし、急に割り込んできた皇帝に対してリリスは冷ややかな視線を向け、チイも「献上」という言葉が引っかかり、堂々と言い返す。
「お言葉ですが皇帝陛下、我が国と貴国は同盟国、対等な立場です。献上ではなく、あくまでもこれは取引です」
「陛下、ここは私にお任せください」
「う、うむ……そうであったな」
自分達があくまでも上の立場であると意識した皇帝の言葉には流石にチイも黙っていられず、アリシアは皇帝に余計な口を挟まないように注意する。
「薬草の栽培に成功した事は喜ばしい事ですが、同時に我が国では農業に関しても変化が起きました。我が国では農業にはあまり力を入れていませんでしたが、こちらのほうも森の民の協力のお陰もあり、農業改革に成功しました」
「改革、ですか?」
「信じられない話かもしれませんが、我が国では数百名の農民の協力を得て農作物の大量生産に成功し、食料不足の危機を乗り越える事が出来ました」
「数百名の農民!?そんな馬鹿な……」
「陛下、お静かに……」
皇帝は数百名の農民がケモノ王国に存在するという話が信じられず、それほどの数の農民の称号を持つ者をどうやって集めたのかと戦慄する。そんな彼に対してアリシアは話が進まないので叱りつけると、リリスは話を戻す。
「これまでは帝国から大量の食料を薬草と引き換えに輸入してもらいましたが、今後は食料は減らして貰い、別の物で取引を行いたいのです」
「それは……金銭で支払ってもらいたいという事でしょうか?」
「いいえ、人材です」
「人材?」
食料の生産に成功した以上はケモノ王国は帝国から食料を受け取る必要はなくなるため、今後は食料ではない物を薬草と引き換えに要求する。その内容は世界一の領地と人口を誇る帝国から人材を分けて欲しいという内容だった。
「我が国では魔王軍によって帝都は壊滅状態、現在は復興作業中ですが人手が足りません。そこで帝国に暮らす治癒魔導士、薬剤師、職人関連の称号を持つ人材を派遣してもらい、復興のために協力して欲しいんです」
「では、魔王軍を壊滅させたという話は本当だったのですか!?」
「ええ、その証拠に我々が連れてきた牙竜の亜種……あれは魔王軍から奪取した個体です」
「あの牙竜の事か!?」
ここで黙って聞いていたシゲルが大声を出して驚き、ここまでチイたちを連れてきた牙竜の亜種の正体が魔王軍だと知って驚く。彼以外の者達も動揺を隠せず、牙竜の亜種はこの帝都で暴れた事もあるため、魔王軍の僕という言葉は妙に納得できた。
実際の所は牙竜の亜種(クロミン)は魔王軍の手下でも何でもなく、先日の帝都の騒動はリル達が魔除けの石を奪還するために行ったのだが、この時にレイナは「ジョカ」を演じて魔王軍として暴れている。この一件のせいで帝国の人間は牙竜の亜種が魔王軍の僕であり、現在はケモノ王国が保護して従えているという言葉に信憑性がある。
「王国にて魔王軍が暴れたという話は聞いておりましたが、魔王軍を壊滅させたというのは本当なのですか?」
「嘘じゃありませんよ、解析の勇者であるレアさんと私達の力で魔王軍を壊滅させる事には成功しました。魔王軍幹部であるジョカ、ツルギは死亡、現在は1名のみ拘束した状態で生かしています」
「むむむ、我が国では魔王軍の活動は確認されなくなったが、まさかケモノ王国に仕掛けていたとは……しかし、魔王軍が壊滅したという事はもう魔王軍の脅威に怯える必要はないのだな?」
「ええ、その通りです。魔王は解析の勇者の手によって討ち取られました」
「ま、マジかよ……」
「レア君、すご~いっ……」
「あの、霧崎君が……」
魔王軍がレアとケモノ王国の戦力によって討ち滅ぼされたという話を聞いた3人の勇者は驚きを隠せず、特に瞬の動揺は大きかった。
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