後日談 《帝都》
――思いもよらぬ使者の訪問にすぐにミームは帝都へと連絡を送り、一先ずは王国の使者を帝都へ迎え入れる準備を整えさせる。先日の王女誘拐の一件が魔王軍の仕業だと判明し、帝国側としても王国には引け目があった。
数日後、遂に王国の使者が帝都へと辿り着くと城下町の民衆は動揺を隠せなかった。何しろ王国からの使者を乗せた馬車を引いているのは普通の馬などではなく、全身が黒色の鱗で覆われた牙竜だった。しかもこちらの牙竜は先日の帝城にて現れた個体を瓜二つであり、そのせいで増々混乱に陥る。
「き、牙竜だ……本当に牙竜を従えているのか」
「お、俺……竜種を見るのは初めてだよ」
「なんて恐ろしい形相だ……ひっ!?こっちを見た!?」
「ガウッ?」
「クロミン、皆を怖がらせたら駄目」
街道を移動中、クロミンは遠目から見つめてくる民衆に首を向けると、人々は悲鳴を上げて逃げ出す。その様子を見てクロミンの背中に乗ったサンが注意を行う。クロミンの周囲にはミームが用意した騎士が配置され、彼等は顔色を青くしながらも帝城まで使者を案内する。
「あんた達、びびってんじゃないよ!!それでも帝国の騎士かい!?」
「そ、そういわれましても……」
「ミーム将軍、やはり竜種を城下町に入れるのはまずいのでは……」
「ここまで来て泣き言を言うんじゃないよ!!」
ミームの先導の元、遂に帝城へ辿り着くと使者を迎え入れたのは大量の兵士と3人の勇者だった。シゲルはクロミンに視線を向けると、冷や汗を流しながらも笑みを浮かべる。
「間違いねえ、やっぱりあの時の奴か!!」
「ガウッ……」
茂は前に出るとクロミンの前に立ちふさがり、そんな彼にクロミンは視線を向けて目つきを鋭くさせる。過去に茂はクロミンと戦った事があり、散々痛めつけられた思い出があるクロミンとしては茂を見ると不機嫌そうに唸り声を上げた。
「グゥウウッ!!」
「何だ、やるのか!?」
「シゲル殿!?刺激するのはお辞め下さい!!」
「止めるんだ、茂!!」
「わわっ!?喧嘩は駄目だよっ!?」
クロミンが歯を剥き出しにすると茂は咄嗟に構えるが、それを兵士達が抑えつけ、同じ勇者の瞬と桃も止める。その様子を見ていたサンはクロミンの頭を小突き、喧嘩しないように注意を行う。
「こら、クロミン!!他の人に怖い顔しちゃ駄目って言った!!」
「ガウッ……」
「な、なんだあの少女は……ダークエルフか?」
「牙竜を従えているのか!?あんな小さい子供が……」
サンに叱られたクロミンは大人しくなると、その様子を見ていた兵士達は動揺する。兵士から見れば牙竜の背中に子供が乗っているだけでも異様な光景だった。しかも希少種族のダークエルフともなれば尚更注目を集めるのは当たり前である。
クロミンからサンは下りると、馬車に乗っていたチイとリリスも下りて同行していた白狼騎士団の騎士達も下りた。騎士達は木箱を抱え込み、改めてミームは城の兵士達に告げた。
「ケモノ王国の使者を連れてきた!!すぐに城門を開け!!」
「将軍、まさかこの牙竜を中に入れるつもりですか!?」
「先日の件をもう忘れたのですか!!魔王軍のジョカなる者が使役していた牙竜がこの城を襲った事を!!」
「その辺を含めて説明するといっているんだ!!いいから早く城門を開け!!王国からの使者を蔑ろにするつもりかい!?」
ミームの言葉に兵士達は圧倒され、確かに帝国としては王国との関係を修繕するために無礼な真似は出来ない。しかし、仮にも竜種である牙竜を城内に入れる事に躊躇するのも無理はなかった。
結局はミームの強硬で城門は開き、城内へと王国の使者を招く。クロミンはサンと共に城の中庭へと移動し、他の者達は玉座の間へと向かう――
――玉座の間では皇帝が緊張した様子で使者が訪れるのを待ち構え、落ち着かない様子で彼は頭を抱えていた。その様子を見兼ねて皇女であるアリシアは皇帝に話しかける。
「陛下、落ち着いて下さい。事前の打ち合わせ通りに王国への使者の対応は私に任せてください」
「う、うむ……アリシアよ、頼りにしているぞ」
「陛下!!王国からの使者を連れてい参りました!!」
遂に玉座の間に使者を引き連れたミームが訪れると、皇帝は慌てて動揺を悟られないように毅然とした態度を取り、アリシアは前に出る。事前の連絡で今回の使者の訪問にはリルもレイナも同行していない事は彼女も知っていたが、リルの側近であるチイとは何度か顔を合わせている仲なのでアリシアは自然な感じで語り掛けた。
「お久しぶりですね、チイ副団長……いえ、今は団長でしたね」
「アリシア姫様、お久しぶりです」
「初めまして、王国では研究家と軍師を兼任しているリリスと申します」
「初めまして……リリス殿の名前はこちらでも有名ですよ。なんでも飛行船なる乗り物の開発を提案した御方だと伺っています」
アリシアが手を差し出すと慌ててチイはその手を握りしめ、初対面であるリリスは挨拶を行うと、そちらも笑顔でアリシアは対応する。
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