後日談 〈帝国へ訪問〉

「まさか、あの乗り物は……」

「ミーム将軍!!あれはきっと牙竜の亜種ですよ!?」

「ど、どうしますか!?撃退しますか!?」

「落ち着きな、馬鹿共!!こんな時だからこそ冷静に対処しな!!」



接近する黒色の牙竜を見て兵士達は慌てふためくが、すぐにミームは見張り台の鐘を鳴らして砦内の兵士達に異常事態を知らせる。普段からミームによって躾けられている兵士達は即座に行動を開始すると、門の方に兵士達が集まった。


砦内の兵士を呼び寄せるとミームは即座に見張り台から降りると、部下が引き連れてきた馬へ乗り込む。更に彼女は門の前に兵士に指示を出す。



「開門しな!!」

「はっ!?開けるのですか!?」

「早くしな!!」



牙竜が攻めてきた場合は平地戦を挑むのは無謀のため、基本的に籠城して迎え撃つのが上策だと言われている。しかし、ミームは門を開いて討って出るつもりなのかと兵士は焦りを抱くが、すぐに言われた通りに彼等は門を開く。



「全員、あたしに付いてきな!!」

「しょ、将軍!!まさか、このまま突っ込むおつもりですか!?」

「いくら何でもそれは無謀では……」

「文句は聞かないよ!!ほら、さっさと付いてきな!!」



兵士達は信頼する上司からの言葉とはいえ、平地で牙竜に挑むという事に恐怖を抱く。だが、ミームは走り出すと兵士達も彼女の後に続き、接近する牙竜の亜種の元へ向かう。


牙竜の亜種もミーム達の存在を把握すると、徐々に移動速度を落としてやがて停止する。その様子を確認したミームは兵士達を立ち止まらせると、改めて牙竜と向かい合う。



「ガアアッ……!!」

「……なるほど、確かにシゲルの言う通りに全身が真っ黒な牙竜だね」

「こ、こいつ!!前に帝都で現れた奴ですよ!?」

「そ、そうだ!!王都を襲ってきた奴です!!」



兵士の中には帝都に存在した者もおり、出現した牙竜の正体が先日に帝都の帝城に襲い掛かった個体だと見抜く。牙竜の亜種は黙って兵士達に視線を向けると、自分の背中に首を向けて声をかける。



「シャアアッ!!」

「きゅろっ!!」

「うわっ!?子供!?」

「あんたは……」



黒龍の亜種、改めクロミンの背中にはサンが乗り込み、その姿を見たミームは子供が狂暴な牙竜の背中に乗り込んでいる事に驚く。だが、更に黒龍が引いている馬車から現れた人物に驚く。



「待ってくれ、帝国の方々!!私達はケモノ王国からの使者です、争うつもりはありません!!」

「お前達は……リル王女の側近かい!?」

「今はリル女王ですけどね」



馬車から現れたのは使者として派遣された白狼騎士団ののチイと、自称研究家であり、最近では軍師の役職も与えられたリリスだった。二人が現れるとミームは驚きの声を上げ、顔見知りの相手とはいえ唐突に現れた事に警戒する。



「どうしてあんた達がここに……いや、さっき使者と言っていたね?」

「その通りです。リル女王の命を受け、帝国への使者として派遣されました」

「では、改めて自己紹介させていただきます。私の名前はチイ、白狼騎士団の団長です」

「白狼騎士団!?それは確か、王女が率いている騎士団では……」

「確か、団長は王女自身のはず……」



チイが自分の事を白狼騎士団の団長だと宣言すると、兵士達に動揺が走った。白狼騎士団の名前はもう各国にも知れ渡り、ケモノ王国の中でも最強の騎士団として知られていた。


白狼騎士団の団長はリルが勤め、彼女が選び抜いた騎士達はケモノ王国内でも実力者揃い、特に女騎士レイナの名前は知らぬ者はいないと言われていた。だが、リルが女王に即位した事で騎士団長の座を副団長のチイに譲る。



「先日、我が国ではリル女王が即位しました。それで副団長である私が団長の座を引き継ぐ事になりました」

「なるほど、そういう事だったのかい……それにしてもこの牙竜の亜種はあんたらが躾けているのかい?」

「ええ、うちには腕のいい魔物使いがいるので……サンちゃん、皆に仲が良い所を見せてくれ」

「クロミン、お手」

「ガウッ」



リリスの言葉にサンが地上に降りて掌を差し出すと、クロミンは前脚を伸ばしてサンの頭の上に置く。その様子を見てミームは本当に躾けているのかと疑問を抱くが、ともかく急に訪れたチイたちの対応を行う。



「それで王国の使者がどうしてここに?使者が訪れるなんて連絡は届いていなかったのに……」

「我々は牙路を通ってきました。だから正規の手順でここへ訪れたわけじゃないんですよ」

「急な訪問の無礼はお許しください。ですが、どうしても両国の友好を深めるために我々を帝都まで通して欲しいのです」

「ふむ……その牙竜は暴れたりしないだろうね?」

「大丈夫です、この子がよく躾けてますから」

「クロミン、おかわり」

「ガウッ!!」



サンが命令を与えるとクロミンは今度は反対の腕をサンの頭の上に乗せ、本当に躾けられているのかと不安を抱くが、とりあえずはミームは兵士達の警戒を解くように告げた――

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