後日談 〈帝国兵の動揺〉

――王都の復興が開始されてから一か月後、帝国の牙路の付近では新しい砦が建てられていた。先日の一件もあり、牙路から出現する牙竜の対策のためにミーム将軍が砦の建築を命じる。


これまでは牙路の付近には人間が暮らせる建物を作る事はなく、牙竜の脅威に恐れて一定に離れた場所に見張り台を設置するのが精いっぱいであった。しかし、先日の魔王軍が牙竜を利用して帝国領地への侵入の件以来、ミームは大軍を投じて砦の建設を行う。



「あんた達、サボるんじゃないよ!!もう牙竜如きに後れを取らないようにここに帝国一の堅固な城を築き上げるんだ!!」

「は、はい!!」

「分かりました!!」



今現在は「砦」程度の規模だが、この場所に牙竜でも侵入出来ない程の城を築き上げ、この城を切っ掛けに牙竜の脅威を排除しようとミームは考えていた。だが、今の段階では城というよりは砦という表現が正しく、流石に竜種が侵入出来ない程の城を作り出すのは時間が掛かりそうだと考えられた。



「ふうっ……ミーム将軍も無茶を言うよな。いくらこの城に勇者様も滞在する事が決まったからって、城を作れなんてな……」

「えっ、その噂……本当なのか?」

「ああ、間違いないぜ。先日の会議でこの城の管理は勇者様に任せるらしいんだ。皇帝陛下も何を考えているんだろうな、貴重な戦力をこんな辺鄙な場所に送り込むなんて……」



砦の外の見張り台の上の兵士達は外部の警戒を行いながらも話し合い、この城が建造された後は勇者の誰かが管理を行うという話が広まっていた。よりにもよって勇者という貴重な人材を牙路という危険地帯に任せるなど有り得ない話だった。



「勇者か……そういえば、例の解析の勇者の噂を聞いているか?」

「噂?どんな噂だよ?」

「何でもケモノ王国の方で魔王軍が解析の勇者によって討伐されたという噂だぜ。この間、ケモノ王国から来た商人が王国中で勇者が魔王を倒したという話が広がってるんだよ」

「そんな馬鹿な……その話が本当だったら魔王軍はもう壊滅したのか?」

「有り得ないと思うだろう?でも、よく考えろよ。このしばらくの間は帝国の方でも魔王軍が何か問題を起こしたという話は聞かなくなっただろ?」

「言われてみれば……」



既に帝国領地にも勇者であるレアがケモノ王国にて魔王軍と激突し、ケモノ王国の勢力と森の民の協力を得て魔王軍を打ち破ったという話は広まりはじめていた。しかし、内容が内容だけに簡単に信じられる話ではない。


しばらくの間は見張り台の兵士達はそんな噂を行っていると、ここでミームが見張り台に登ってきた。彼女は見張りをそっちのけで話し合っている兵士達に気付き、注意を行う。



「あんた達、何をサボってるんだい!!この場所で見張りの役目がどんなに重要なのか理解しているのかい!?」

「み、ミーム将軍!?」

「も、申し訳ありません!!」

「全く……最近は牙竜の奴等が全く姿を見せなくなったからって安心しきってるんじゃないよ」



兵士達はミームに叱責されて慌てて見張りを真面目にやり始めるが、実のところは最近では牙路の付近で牙竜を見かける事は殆どなかった。一か月ほど前は草原の方に牙竜が姿を現す事はあったが、最近では姿を現す事はなかった。そのお陰で順調に新しい城の建設作業は進んでいるのだが、それが逆にミームにとっては不気味に感じた。



「いいかい、牙竜の厄介な所は足の速さだ!!目で見える範囲に現れたらあんた達が他の人間に報告する間に奴等はこの場所の目前まで迫ると考えな!!下位竜種とはいえ、奴等を倒すには最低でも1匹につき1000人の兵士を犠牲にしなければ勝てない相手だと思いな!!」

「は、はい!!」

「分かりました!!」

「…………」

「ん?あんた、どうしたんだい?」



見張り台の兵士の中で一人だけ返事を行わない者がいた事にミームは疑問を抱くと、彼女はその兵士の視線の先に顔を向ける。すると、遠目ではあるがこちらに接近する黒色の大きな物体を発見した。



「何だい、あれは……」

「ひ、ひいいっ!?」

「おい、急にどうした!?」



ミームは目を細めながらこちらに接近する物体の正体を確かめようとすると、黙り込んでいた兵士が腰を抜かす。その様子を見て他の者達は驚くが、兵士は口元をぱくぱくと開け閉めしながら呟く。



「き、牙竜だ……全身が真っ黒の牙竜が近付いてきている!!」

「何だと!?」

「嘘だろ、おい!?」

「嘘じゃない、俺は山暮らしだから目には自信があるんだ!!遠視と観察眼の技能も持っている、だからここで毎日見張りを任されているんだ!!」

「……黒い牙竜だって?」



兵士の言葉にミームは考え込み、何処かで聞き覚えのある話だと思った彼女は視線を凝らして接近する黒色の牙竜の様子を伺う。この時に彼女は牙竜の後方に何かが存在する事に気付き、すぐに正体が牙竜に繋がれた大きな馬車のような乗り物だと判明する。


牙竜の体型に合わせたのか大きな馬車には旗が立てられ、それを見たミームは驚く。何しろ旗にはケモノ王国の紋章が刻まれ、さらには牙竜の頭には見覚えのある顔の人物が存在し、すぐに彼女は兵士達に命令した。

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