後日談 〈復興〉

「――魔王を倒せばハッピーエンド、なんてのはRPGではよくある話ですけど、現実だとそんなに簡単に上手く行きませんね」

「うん……黒幕を倒しても、壊された街は元には戻らない」



即位式の翌日、レイナとリリスは魔王軍の襲撃によって破壊された城下町の復興作業の様子を確認する。魔王軍の幹部や内通者が引き起こした火災、更には牙竜や雷龍が暴れた時の街の被害は大きく、現在は大勢の兵士が復興作業のために集められていた。


飛行船の造船所で働いていたドワーフの職人たちを中心に復興作業は進められ、とりあえずは破壊された建物の瓦礫の撤去が行われていた。家を失った人々は避難所を設けてそこに住まわせ、食料の配給のために白狼騎士団も繰り出される始末だった。



「ほら、食料は十分にありますから焦らず騒がず仲良く並んでください」

「おかわりが欲しい人は遠慮しないでくださいね。すぐに新しいのを用意しますから」

「ああ、有難い……」

「この豚汁という料理、美味いな!!」

「それは拙者の故郷の料理でござる!!存分に味わうと良いでござる!!」

「……こっちにはおかゆもある」

「怪我の治療をまだ受けていない人間はこちらに来い!!すぐに治療してやるからな!!」



騎士団の団員の元に城下町に暮らす民衆が押し寄せ、彼等は温かい食事や怪我の治療まで無料で行ってくれる騎士団員に感謝する。今回の魔王軍の襲撃で家を失った人間も多く、そんな彼等のために連日で騎士団員は食料の配給と怪我の治療を行う。



「ふうっ……頑張って国内の農耕を改善させた甲斐がありましたね。食料に関しては十分に余裕がありますよ」

「うん、食料で困らないのは助かったね」

「ですけど、問題は山積みですね。破壊された建物の撤去と修復だけでも相当な時間が掛かりますし、それに折角作った飛行船も全燃……この調子だと国内の予算がだけでは賄えませんね」

「魔王軍め……奴等さえいなければ!!」



今回の魔王軍の襲撃で王都の城下町は酷い被害を受け、完全に復興するまで相当な年月が必要だと予想された。仮に今回の襲撃が他国からの侵攻ならば敵に勝利した時点で他国に責任賠償を要求できるが、相手が魔王軍でしかも壊滅させた場合は責任を追及する事も出来ない。


先日の大幅な農耕改革を行っただけでもかなりの出費だったが、更に王都の復興費を加えるとこのままでは国が破綻しかねない。当初の予定では大量に生産した食料や薬草を他国に流通させて利益を得る予定だったが、肝心の飛行船が壊されてしまってはどうしようもなかった。



「このままだと国として保つ事が出来ませんね……こんな状況でもしも他の国が攻め込んで来たら厄介な事になりますよ」

「怖い事を言ないでよ……どうにか出来ないかな?」

「……レイナにお金を作ってもらうとか?」

「それは駄目です、お金を製造した所で物価の価値が変わるだけで根本的な解決にはなりません。他国から利益を得なければなりませんね」

「そうなると……やはり、頼れる相手は帝国か」

「あんまり頼りたくはない相手……」



チイの呟きにリリスは否定せず、国内の財政難を解決するには他国に支援が必要不可欠だった。そしてケモノ王国が頼れる相手は隣国の同盟国であるヒトノ帝国しか存在しない。


ヒトノ帝国とはレアの件もあって現在は微妙な関係だが、帝国が最も求める品物を用意できるのはケモノ王国だけである。現在のケモノ王国は森の民の協力の元、薬草栽培の改善と回復薬の大量生産を行う準備を進めていた。



「帝国に回復薬を売り捌いて利益を得て、それを復興費に回すという手段もありますね」

「だが、帝国へ回復薬を売買するといっても時間が掛かり過ぎるぞ。ケモノ王国からヒトノ帝国へ移動するにはどれほどの時間が掛かるか……」



ケモノ王国とヒトノ帝国の間には険しい山脈が存在し、多数の危険な魔物も生息していた。仮に回復薬を帝国に売り捌くとしても相当な日数が必要になると思われるが、ここでリリスがある方法を利用すれば帝国の帝都へ移動できる手段がある事を話す。



「あ、そうだ……あれを使えばいいんじゃないですか?」

「あれ?」

「転移台ですよ。ほら、城に忍び込んだ闇魔導士から回収した魔道具です」

「あ、あれか!!」



リリスの言葉にレイナは思い出し、先日に襲撃を受けた際にレイナ達は魔王軍に雇われた闇魔導士の男から転移型の魔道具を回収していた。それを利用すれば遠く離れた国でも一瞬に移動できる可能性は十分にあった。


ケモノ王国とヒトノ帝国の間を自由に行き来できる道具さえあればこれからはわざわざ危険を犯して山脈を移動する必要もなくなり、両国が求める商品を流通出来る。すぐにレイナ達は転移台の確認を行い、この方法が上手く行くのかを話し合う――

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