後日談 〈リルの即位〉
――魔王が勇者レアに討たれてから数日後、王城にて国内の貴族の当主が集まり、数多くの将軍の前にて遂にリルの「即位式」が行われた。これまでは国王の代理として勤めてきた彼女であったが、養父と義弟を殺した魔王軍を討ち滅ぼした以上は代理の座に留まる必要はなかった。
この日のために北方領土からはガーム将軍も訪れ、彼は今は亡きガオが所有していた剣を手にしていた。大将軍であるライオネルと共にガームはリルの後ろに並び、玉座の前にてリルは立ち尽くす。
「ふうっ……」
玉座に座った瞬間から彼女はこの国の国王となり、この国の頂点に立つ存在となる。彼女はガオの形見である剣を携えたガームに振り返ると、彼は頷いて隣に立つライオネルも動揺に笑みを浮かべた。
覚悟を決めたリルは玉座に座り込むと、直後に家臣たちはその場に膝を着き、新たな国王に跪く。その様子を見てリルは瞼を閉じると、やがて家臣の前で宣言した。
「本日をもって国王代理の座を辞す!!宣言する、私がこの国の新たな王となった!!」
『はっ!!』
リルの言葉に全員が返事を行い、その様子を白狼騎士団の面々も見ていた。チイは涙ぐみ、ネコミンも嬉しそうに猫耳と尻尾を動かし、サンもクロミンを頭に乗せた状態で拍手を行う。ハンゾウは現在はレイナとして変装し、その隣に立つリリスは腕を組んだまま考え込み、シルを抱えたティナも感動の表情を浮かべる。
「そして、私が国王の座に就けたのはここにいる勇者殿のお陰だ!!」
「……あ、どうも」
玉座に座り込んだリルの隣にはレアが立っており、彼は名前を呼ばれたので気まずそうな表情を浮かべながらも頭を下げる。自分はこんな場所にいてもいいのかと思いながらもリルの要望でレアは男性の姿のままでここに立っていた。
即位式には森の民も参加し、長であるカレハを筆頭に森の民の戦士達も勢揃いしていた。彼女達もリルの即位式に呼び出されたのは理由があり、ここでカレハは玉座の元へ移動する。
「森の民の長、カレハ殿……森の民にはこれまで数多くの迷惑を掛けた事をお詫びします。ですが、蟲の良い話かもしれませんがこれからは共に生きる道を歩んでくれませんか?」
「その言葉、誠に嬉しく思うぞ。獣の国の女王……先日の魔王軍の襲撃で我々も思い知らされた。もしもまた魔王と同じ脅威が現れた場合、我々の力だけでは対抗する事が出来ない……勇者様を守る盾の役目を持ちながら、結局は私達は勇者様にまたもや救われてしまった」
カレハは先日の一件で自分達が魔王軍の幹部に手も足も出なかった事を思い出し、しかも大切な勇者が残した「神器」と呼ばれる魔道具も失ってしまった。これまで森の民は自分達こそが最強の戦士だと自負していたが、その自信は魔王という圧倒的な存在を前に砕かれてしまう。
「これまでの我々は自分達だけで勇者様を守る力を持つと自惚れておった。しかし、この世界には我々だけではどうしようもない力を持つ者がいた……もしも勇者様の身に先日の魔王のような存在が現れた時、我々だけでは守れませぬ。ならば長き因縁の関係を捨て、これからはお互いに協力して勇者様を今度こそ守ろうではないか」
「ありがとうございます……皆の者、話を聞いていたな!!ケモノ王国と森の民は今日を以て正式に同盟を交わす!!」
『御意!!』
ケモノ王国の家臣とカレハが連れてきた森の戦士達は二人の言葉に敬礼を行い、カレハはリルの隣に移動すると笑みを浮かべる。まさか自分が生きている間に獣人族の国と和解する日が来るなど思いもしなかったが、気分は悪くはなかった。
「私はここに誓う!!今は亡き先王と我が義弟のため、そしてこの国に暮らす民のため、今以上にこの国を豊かで争いの無い平和な国へと発展させる事を!!」
『うおおおおおおっ!!』
リルの発言に玉座の間に存在する全ての獣人族は歓声を上げ、森の民も拍手を行う。最後にリルはレアとカレハと握手を行い、そしてガームからガオの剣を受け取ると、その場で抜いて天井に構える。
「父上、先王、ガオ!!天上の世界で見守ってくれ!!私は必ずや貴方達を越える王なりましょう!!」
――この日、ケモノ王国に新たな国王が誕生した。その報告は即座に世界各国へと伝わり、当然ではあるがヒトノ帝国の元にも届いた。この報告を受けたヒトノ帝国の皇帝は自分の国が召喚した「解析の勇者」が魔王軍を討ち滅ぼし、果てにはケモノ王国の勇者として正式に迎え入れられたという報告を受けて衝撃を受けた。
この世界に召喚されたばかりの頃のレアは他の3人の勇者と比べても能力的には劣り、とても期待できる人材ではなかった。そんな彼がヒトノ帝国を苦しめていた魔王軍を打ち倒し、更には森の民とケモノ王国を和解させる切っ掛けとなった事を知った皇帝は後悔したという。
『あの時、大臣などに任せずに大切に扱っていれば我が国は今以上に発展しただろう……』
皇帝はウサンなどを信じたが故に最も価値のある勇者を手放してしまったのかもしれない事に嘆いたという――
※ここまでのご愛読ありが……い、いや!!最終回じゃありませんから!!
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