第634話 黒龍の雷光

「調子に乗るな、魔王!!」

『ギィアアアアッ!!』



聖剣を振り抜いて魔王が放つ闇属性の魔力を打ち払い、駆け出す。レイナは魔王に向けて瞬動術を発動させて一気に距離を縮めると、魔王と雷龍が合体した「黒龍」の首元へ向けてフラガラッハを振り抜く。



「だああっ!!」

『アガァッ!?』



聖剣が黒龍の首元を斬り裂き、まるで血の様に闇属性の魔力が噴き出す。倒したかとレイナは思ったが、首元から噴き出した魔力は外部へと放出したのも一瞬だけですぐに時間を巻き戻すように体内へと戻る。しかも傷口を魔力で塞ぎ込み、黒龍は何事もなかったかのようにレイナへ攻撃を行う。



『死ねぇっ!!』

「うわっ!?」



黒龍が尻尾を振り払うと、咄嗟にレイナは上空へ跳躍して回避する事に成功したが、後方に存在した建物の群が破壊されてしまう。黒龍は巨体を生かして攻撃を繰り出し、それを避けるのにレイナは精いっぱいだった。


いくら聖剣が闇属性の魔力を打ち払うといっても、あくまでも魔力だけを掻き消すだけなので黒龍の巨体を弾く事は出来ない。圧倒的な質量差を利用して黒龍はレイナを圧し潰そうとするが、それに対してレイナは回避する事以外に方法はない。



「このっ!!」

『ガハァッ!?』



一応はレイナも反撃して相手に損傷を与えるが、すぐに聖剣で斬り裂かれた傷跡は外部に放出した闇属性の魔力によって塞がれてしまう。全く損傷を与えていないというわけではなく、斬り付ける度に黒龍は悲鳴を漏らすがそれでも微々たる損傷だった。



(こいつ、不死身か!?)



どれだけ傷つけても瞬時に傷跡を塞いでしまうため、このままではレイナの方が体力が尽きてしまう。仮にレイナを殺せば黒龍はレイナの肉体を奪うらしく、最強の勇者の肉体を奪う事で自分こそが最強へと至るつもりなのだろう。



(どうすればいい、何か方法ないのか……!!)



いくら聖剣で斬り付けても致命傷は与えられず、逆に近づく程に敵の攻撃を避けるのが厳しくなり、周囲の建物が破壊されていく。このままでは埒が明かないと判断したレイナは必死に考える。



(こいつを倒すには多分、雷龍の肉体をどうにかするよりも闇属性の魔力を全部消し去るしかない。となると、聖属性の攻撃が有効だ……なら、エクスカリバーが一番こいつに通じやすい武器かもしれない)



聖属性の魔法攻撃を行えるエクスカリバーならば現在の黒龍に最も有効的な損傷を与える可能性が高く、この場にエクスカリバーを所持してこなかった事をレイナは悔しく思う。


エクスカリバーさえあればフラガラッハと組み合わせれば強烈な攻撃を繰り出し、黒龍を倒す事も出来たかもしれない。だが、今のレイナの手元にはエクスカリバーは存在せず、城に置いて来てしまった。普通の人間や魔物が相手ならば聖剣の中でもエクスカリバーは攻撃力が低いため、その代わりにデュランダルを持ち込んでしまった。



(いや、まだ文字変換が残っている!!何処かで道具を調達して新しく作り出せば……!!)



以前にレイナは「剣」の一文字だけで聖剣を作り出した事も有り、何処かで一文字の名前の物体を調達し、それを文字変換の能力で変換すれば「聖剣」でさえも作り出せる。エクスカリバーを手に入れれば黒龍に対抗する事も出来るが、今の状況で道具の調達も難しい。



『オァアアアアッ!!』

「またかっ!?」



黒龍は全身から電流を放ち、再び先ほどのように大口を開くと「黒雷」を放つ。先ほどの攻撃威力を思い出した下手に地上に撃ち込まれると被害が増すと判断し、上空へと飛び上がる。



「こっちだ、化物!!」

『オォオオオオッ!!』



レイナが空に移動すると、黒龍はレイナへ向けて黒雷を放ち、それに対してレイナは聖剣を構えてどうにか防ごうとした。聖剣が光り輝き、レイナを守るように黒雷を拡散させるが、徐々に聖剣に熱が帯び始めた。



(まずい!?このままだと剣が持たない……!!)



黒雷は闇属性の魔力だけではなく、雷属性の魔力も取り込んでいるため、聖剣フラガラッハだけでは闇属性の魔力を掻き消しても雷属性の魔力までは打ち消す事は出来ない。刀身が電流によって熱してしまい、徐々に刀身が溶け始める。


どうにか二度目の黒雷を防ぐ事に成功したレイナだったが、地上へ向けて着地した時には聖剣フラガラッハの刀身は半分近くまで溶けてしまい、もう政権としての機能を保つのが限界だった。



(頼む、フラガラッハ……もう少しだけ頑張ってくれ!!)



溶けかかったフラガラッハを手にしたレイナは黒龍と向かい合い、ここで聖剣を失えばレイナに黒龍を倒す手段はない。だが、そんなレイナに対して黒龍は容赦せず、再び電流を帯び始めて3度目の黒雷を放つ準備を行う。

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