第633話 解析不能

――オォオオオオッ……!!



黒雲から出現した人面からおぞましい鳴き声が響き渡ると、口の部分から黒煙のような物が吐き出される。この時にレイナの「魔力感知」の技能が発動し、煙のような物の正体が魔力だと気づく。



(これは闇属性の魔力か!?)



黒雲が吐き出した大量の闇属性の魔力はレイナの元へと放たれ、咄嗟にレイナは避けようとしたがこの時に手にしていた聖剣が光り輝く。まるでレイナを守れるように聖剣フラガラッハは輝くと、上空から接近してきた闇属性の魔力を掻き消す。


聖剣が勝手に反応して闇属性の魔力を掻き消した事に驚くが、その様子を見て人面は憎々し気な表情へと変わり、すぐに雷龍の死体へと視線を向ける。標的をレイナから雷龍へと変化した黒雲は闇属性の魔力を放出させ、雷龍の死体は闇属性の魔力に飲み込まれた。



「うわっ!?」



聖剣を所有していた事でレイナは闇属性の魔力の影響を受けずに済んだが、黄金のように光り輝く鱗に覆われた雷龍だったが、闇属性の魔力によって飲み込まれた事で全身が黒色に染まっていく。そして完全に死んでいたにも関わらず、雷龍は目元を怪しく光り輝かせると、身体が震え始めた。




「オァアアアアッ……!!」

「そんなっ……死骸が動いた!?」




完全に死んでいたはずの雷龍の身体に黒雲から吐き出す闇属性の魔力がしみ込み、やがて王都を覆っていた黒雲が縮小化し、遂には全ての雲が闇属性の魔力へと変化すると雷龍の身体に吸い込まれるように消えていく。その様子を見てレイナはフラガラッハを構えるが、全身が黒色に染まった雷龍は震え出し、咆哮を放つ。




――ウォオオオオオオッ……!!




地の底まで響きそうな大音量の雷龍の雄叫びが響き、あまりの音の大きさに周囲に存在した建物に振動が走るほどだった。レイナは耳元を抑えながらも雷龍の様子を伺うと、全身から黒色の炎のような魔力を纏った雷龍はレイナへと顔を向けて口を開く。



『憎い、憎いぞ、またしても我を邪魔をするか……聖剣がぁっ!!』

「まさか……お前が魔王か!?」

『その身体を寄越せぇっ……勇者がぁああああっ!!』



全身が黒く染まった雷龍は口を開くと、全身から電流を迸らせる。その様子を見てレイナは危険を察知して聖剣フラガラッハを構えると、雷龍の口元から黒色の雷が放たれた。



『オァアアアアアッ!!』

「くぅっ!?」



聖剣がレイナを守るように光を強めるが、火竜の吐息の如く放たれた黒色の雷はレイナだけではなく、直線状に存在した地面や建物を焼き尽くす。その威力は凄まじく、攻撃が止んだ頃には正面に存在した障害物は全て焼き払われた。


あまりの威力にレイナは動揺を隠せず、自分は聖剣のお陰でどうにか助かったが、もしも進路上に人間が存在したら生きている可能性はほぼ有り得ない。レイナは魔王が憑依した雷龍に視線を向け、解析を発動させようとする。



「解析!!」

『無駄だぁっ……その能力はもう調べつくしている、我には効かんっ!!』

「なっ……!?」



今までどんな相手でもレイナの解析を使用すれば視界に詳細画面が表示されたのだが、何故か雷龍に対しては解析の詳細画面が表示されず、どういう事なのかレイナは焦りを抱く。だが、ここである事を思い出す。



(まさか……死骸だからか!?)



現在の雷龍は死骸と化した所に死霊と化した魔王が憑依して捜査しているだけに過ぎず、肉体その物は死骸である事に変わりはない。そのせいか死骸に対して解析の能力が通じないように現在の魔王の詳細画面を開く事はレイナには出来なかった。



(これじゃあ、俺の能力だとどうしようも出来ない!!)



解析が通じなければ詳細画面も開く事は出来ず、魔王が憑依した雷龍に対しては文字変換の能力を使う事は出来ない。しかも現在のレイナが扱える文字数は「1文字」に限られ、日付が変わるまでは文字変換の文字数は回復しない。


現在の時刻は11時を回ったころだが、次に文字数が戻るまで1時間の時を必要とする。適当な道具で1文字で変換できる物を作り出す事は出来るが、魔王その物をどうにかする事は不可能。つまり、今までのように状態を「死亡」や「服従」に変化させる事は出来ないのだ。



『勇者よ……その身体を寄越せぇっ!!』

「うわっ!?」



身体を寄越せと言いながら魔王は雷龍の肉体を利用して長い胴体を利用し、上からレイナを押し潰そうとしてきた。それに対してレイナは咄嗟に「瞬動術」を発動させると、距離を置いて攻撃を回避する。


フラガラッハの効果のお陰で現在のレイナは驚異的な身体能力を有しており、相手が竜種であろうと十分に倒せる力を持っていた。そして闇属性の魔力攻撃は聖剣ならば防げると判断し、彼はこのまま魔王を倒そうと考えたレイナはフラガラッハを構える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る