第632話 魔王の正体

「これで終わりだ!!」



詳細画面に指を伸ばしたレイナは画面に表示されている状態の項目に向け、文字変換の能力によって「死亡」という文字へと書き換える。その直後、画面が更新されると雷龍は力を失ったかの様に地上へと墜落した。



「ギィアッ……!?」



まるで糸が切れた人形のように雷龍は地上へ倒れ込むと、白目を剥いた状態で動かなくなった。その様子を見てレイナは冷や汗を流し、視界に表示されていた詳細画面が消えた事を確認する。



「倒した、のか……?」



用心しながらもレイナは雷龍に視線を向け、もう一度解析の能力を発動しようとした。だが、解析を発動しようとしても視界に詳細画面は表示されない。


レイナの解析の能力は無機物にも発動するが、死体の場合は例外で詳細画面は表示されない。つまり、雷龍を解析しようとしても詳細画面が表示されない場合、即ちそれは雷龍が生きていない事を証明する。



「し、死んだのか、こんなにあっさり……?」



自分がしでかした事とはいえ、あまりにも呆気ない雷龍の死に様にレイナは動揺を隠せず、本当に死んだのかと確認しようとした。用心しながらもレイナは雷龍の死体に近付こうとした時、ここである事に気付く。



(待てよ……何で、雷雲が消えていないんだ?)



レイナは上空を見上げ、王都上空を覆い込む黒雲を確認して嫌な予感を浮かぶ。この時にレイナは何となくではあるが、地図製作の能力を発動して視界に画面を表示した。


周辺一帯の探索を終えたレイナは近くに敵の反応がないのかを確認し、もしかしたら黒雲の中には雷龍の別個体が隠れているのではないかと考えた。レイナが倒した雷龍はあくまでも囮で実は黒雲の中に他の雷龍が潜んでいるのではないかと考えたが、視界に表示された画面を見てレイナは呆気に取られた。



「えっ……何だよ、これっ!?」




――地図製作の画面には巨大な赤色の反応だけが表示され、王都全域を覆い込んでいた。その反応を見てレイナは戸惑い、これまでどんな敵が現れてもこれほど巨大な敵の反応など表示されたことはない。




何が起きているのかとレイナは戸惑い、黒雲を見上げる。まさか黒雲の中にはまだ強大な力を持つ存在が潜み、そのせいで画面上に大きな反応が現れたのかと思ったが、牙竜や火竜のような竜種が現れた時もこんな反応は示した事がなかった。



(まさか……魔王の正体は!?)



ナナシは魔王の正体が雷龍だと思い込んでいたが、それは彼の勘違いではないかと考えた。魔王の真の正体は雷龍ではなく、雷龍を誘導させた存在こそが魔王ではないのかとレイナは黒雲を見上げる。



「……嘘、だろう?」



いつの間にか王都全域を覆い込む黒雲に「人面」のような物が浮き上がっている事にレイナは気づき、この時にレイナは嫌な予感を浮かべた。魔王の正体、それは生物の肉体を持たない存在ではないのかと――





――この世界ではアンデッドのような魔物は「死霊」と呼ばれ、かつてレイナは吸血鬼が生み出したアンデッドと戦った事はある。この世界では生物がアンデッドと呼ばれる生ける屍に変異する条件は吸血鬼と「死霊使い」という職業の魔術師の魔法でしか誕生しない。


吸血鬼の場合は血液を吸い上げる際、対象の生気を吸いつくして死亡させた後、牙から闇属性の魔力を体内に混入させる。これによって噛まれた人間は死亡するとアンデッドへと変異し、ほかの生物へと襲い掛かる化物と化す。


しかし、アンデッドと呼ばれる存在の中には実体を持たない魔物も存在し、それらの類は「死霊使い」しか生み出す事は出来ない。死霊使いは名前の通りに死亡した生物の魂を利用し、自分の僕として使役する事が出来る。


死霊使いは霊魂を利用し、実体を持たない魔物へと変貌させる。その魔物の名前は「ゴースト」と呼ばれ、その外見は生物の形をした黒煙のような存在だという。死霊使いは闇属性の魔力によって霊魂を拘束させ、それを操る力を持つ。




そして王都上空を覆い込んだ黒雲の正体、それは雷龍が呼び寄せた雷雲などではなく、雷雲を捕えていた圧倒的な存在感を放つ死霊だとした場合、レイナの地図製作の画面の異常が説明できる。


地図製作の画面は対象の大きさに合わせて変化するため、対象が大きいほどに反応も大きく表示される。即ち、王都全域を覆い込む敵の反応は間違いなどではなく、黒雲そのものが巨大な死霊である事を示す証拠だった――

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