第631話 雷龍襲来
「――うおおおおっ!!」
「ガァアアアッ!?」
レイナは街道に追い詰めた牙竜に対してフラガラッハを振りかざし、首筋に向けて斬り込む。その一撃で牙竜の首は切断され、返り血を浴びながらもレイナは地上へと降り立つ。
額の汗を拭って周囲を見渡したレイナはこれで王都へ襲撃を仕掛けた牙竜の群れを全滅させた事を確認する。ここまで到達する間にレイナは5匹近くの牙竜を打ち倒し、人々を守っていた。
「皆さん、急いで城へ逃げてください!!城まで逃げれば俺達が守りますから!!」
「は、はい!!」
「何て強さだ……これが白狼騎士団の戦乙女と言われるレイナ隊長の実力か!!」
「うおおおっ!!レイナ隊長万歳!!」
「君達も騒いでないで早く住民を避難させて!!」
圧倒的な強さを誇るレイナに周囲の人々は驚愕と尊敬の眼差しを向けるが、その一方でレイナの方は上空を見上げて冷や汗を流す。既に黒雲は王都の上空を覆い込み、何時何処で雷龍が姿を現すのか分からない状況だった。
相手の姿を視認できなければレイナの解析の能力も発動できず、しかも雷龍を倒すために設計した飛行船は完成間近で燃やされてしまう。このまま雷龍が城下町に襲撃を仕掛ければ大きな被害が出てしまう。
「隊長!!この区域の住民の避難は完了しました!!」
「分かった、それなら皆も城に戻って……何だ!?」
レイナは住民の避難が完了した事を兵士に伝えられると、住民の避難活動を行っていた者達も退くように告げようとした時、黒雲に雷が迸る。やがて黒雲から一筋の雷が放たれ、城下町の建物へと落下した。
「うわっ!?」
「か、雷!?こんな時に……」
「た、大変だ!!あの場所は確か、冒険者ギルドが存在したはずだぞ!?」
兵士の言葉を聞いてレイナは咄嗟に近くの建物の屋根に移動すると、雷が降り注いだ場所は自分も立ち寄った事がある冒険者ギルドだと知った。あの場所には大勢の冒険者と避難させた住民も存在するはずであり、色々と世話になったリンもいるはずだった。
「そんなっ!?くそっ!!」
「あっ!?隊長!?」
レイナは冒険者ギルドへ向けて駆け出し、全員の無事を祈りながら移動を行う。その間にも黒雲から電流が迸り、今度はレイナが飛び移ろうとした建物へと雷は降り注ぐ。
「うわっ!?」
建物を飛び移る寸前で雷が降り注いだことでレイナは立ち止まろうとしたが、体勢を崩して地上へと落ちてしまう。どうにか着地する事に成功したが、雷が落ちた事で崩壊した建物を見て悔し気な表情を浮かべる。
「おい、聞こえるか!!お前の狙いは何だ!!」
空へ向けてレイナは雷龍ボルテクスに対して語り掛け、地上から声が届くとは思えないが、叫ばずにはいられずにレイナはフラガラッハを構えた。すると、黒雲の中から咆哮が響き渡る。
王都全域に響き渡るほどの雷龍の雄叫びが響き渡り、やがて黒雲の中から全身から電流を迸らせた全身が金色の鱗で覆われた龍が出現した。その外見は牙竜や火竜とは異なり、この2種が西洋の「ドラゴン」を想像させる姿をしているのに対し、姿を現した雷龍は東洋の「龍」と酷似していた。
『ギィアアアアアアッ――!!』
今までに遭遇したどんな魔物よりもおぞましい咆哮が放たれると、姿を現した黄金の龍は全身に電流を迸らせ、レイナの前に現れる。その様子を見てレイナは驚きを隠せなかったが、すぐに「解析」を発動させる。
(こいつが雷龍ボルテクスか……解析!!)
遂に自分の前に現れた雷龍に対してレイナは「解析」を発動させると、視界の詳細画面が表示され、雷龍の正体を見抜く。
――――雷龍――――
種類:上位竜種(突然変異種)
性別:雄
状態:興奮
特徴:天空の支配者の渾名を持つ飛行能力を持つ竜種の中でも最も戦闘力が高いと言われる。その鱗はあらゆる攻撃を弾き返し、体内には電流を作り出す器官が存在する。常に雷雲の中で暮らし、滅多に雲の中から姿を現す事はない
――――――――――
表示された画面を確認してレイナは冷や汗を流し、遂に「上位竜種」と呼ばれる存在と出会ってしまった。あの牙竜でさえも「下位竜種」でありながら圧倒的な力を誇り、更にその上位種が出現した事にレイナは緊張を隠せない。
しかし、詳細画面に表示された文章をみてレイナは疑問を抱き、事前にナナシから受け取っていた情報によると雷龍の正体こそが「魔王」である事は間違いない。だが、詳細画面に表示された文章はあくまでも雷龍の事を魔物としてしか表示しておらず、魔王の文字も書かれていない。
(どういう事だ、こいつが魔王軍の黒幕じゃないのか……!?)
遂に姿を現した雷龍に対してレイナはその姿に圧倒されながらも疑問が尽きず、ナナシから得た情報では雷龍と魔王は同じ存在のはずだが、少なくとも画面上ではあくまでも魔物としてしか内容が表示されない。
だが、どんな雷龍が何者であろうとここで放置する事は出来ず、今回ばかりは手段を選べないため、レイナは指先を構えて状態の項目に手を伸ばす。
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