第630話 皆で力を合わせて
「シロ、クロ!!無事だったのか!!」
「「ウォンッ!!」」
「ちょいとばかし治療に時間は掛かりましたが、完璧に治しましたよ。それよりもどういう状況ですか、これ!?」
「気を付けろ、奴は合成生物……複数の種類の魔物を配合させて生み出された魔物だ」
「合成生物……!?」
デュランダルの攻撃によって吹き飛んだキマイラだったが、損傷は受けていないのか起き上がると、鳴き声を放つ。
「シャアアアッ!!」
「何と面妖な……尻尾に顔があるのですか」
「奴の尻尾が恐らくは本体だ!!あの尻尾を切り落とせば倒せるはずなんだが……」
「なるほど、それでしたらティナさん!!やっちゃってください!!」
この場でキマイラに対抗できる力を持つのは聖剣デュランダルを所有するティナだけのため、彼女はリリスの言葉に従って聖剣を構える。しかし、剣を振りかざす前に彼女は立ち眩みを覚え、膝を着く。
「うっ……!?」
「ちょっ、大丈夫ですか!?まだ怪我が治ってなかったんですか!?」
「い、いえ……リリスさんの薬と回復魔法で怪我は治ったはずですが、どうやら血を流しすぎた様です」
「……盲点でした、私の回復薬や回復魔法では失った血液までは再生する事は出来ません。今のティナさんは貧血状態を引き起こしたんです」
「そんなっ!?」
怪我を治療する回復薬や回復魔法では失った血液までは取り戻せず、先の激戦でティナは血を失いすぎていた。ここまでは気力でどうにか持ちこたえてきたが、これ以上の戦闘は不可能だとリリスは判断する。
話し込んでいる間にもキマイラは迫り、その光景を見てリリスは考えた末、彼女は奥の手を用意する事にした。彼女はキマイラと向かい合うと、一本の薬瓶を取り出す。
「仕方ありませんね、もう一度これを頼る時が来ましたか」
「リリス、まさかそれは!?」
「こんなデカブツに聞くのかは分かりませんが、ここは私が何とかしましょう。クロ、奴に近付いて下さい!!」
「ウォンッ!!」
リリスの言葉にクロは駆け出すと、キマイラへと向けて接近する。自分に迫りくるリリスとクロを見てキマイラは前脚を振りかざすが、いかんせん尻尾の頭から見ると狙いが定めにくいのか、攻撃は外れてしまう。
「何処を狙ってるですか、このデカブツ!!」
「シャアアッ……!?」
上手く当てられない胴体を使うよりも大蛇の頭は首(尻尾)を動かし、直接に2人を飲み込もうとした。それに対してリリスは待っていたとばかりに手にしていた薬瓶を投げ込む。
「とっておきの最後の一本、喰らえっ!!」
「アガァッ……!?」
大口を開いてリリス達を飲み込もうとした大蛇の口元に禍々しい色合いの薬瓶が投入され、それを飲み込んでしまう。その直後、大蛇の悲鳴が響き渡る。
――ギャアアアアアッ……!?
蛇というよりは人間のような悲鳴を上げ、キマイラの尻尾の大蛇はのたうち回り、胴体の部分も苦しみもがくように暴れ狂う。リリスが投げ込んだのはハンゾウに利用した「仮死薬」であり、彼女の持っている薬瓶の中で最も敵に有効な損傷を与えそうな毒薬はこれしかなかった。
忍者であるハンゾウは毒物や薬物の耐性を持っているが、そんな彼女でさえも飲み込めば一時的に仮死状態へと追い込むほどの猛毒である。キマイラのような巨体の生物には利用したことはないが、見た限りでは効果は抜群だった。
「よし、弱らせる事には成功しました!!あとはお願いしますよ、3人とも!!」
「ああ、分かった!!」
「よくやったぞリリス!!」
「流石は銀狼隊の策士……やる事がえげつない」
リリスが持っていた最後の上級回復薬と、ネコミンの回復魔法によって怪我を完治させたリルとチイは起き上がると、彼女達は剣を構える。妖刀ムラマサと聖剣フラガラッハを抱えた二人は苦しもがくキマイラの尻尾へ向けて駆け出し、止めの一撃を繰り出す。
「「和風牙!!」」
「アァアアアアアッ――!?」
空中で回転しながら振り下ろされた刃が大蛇の形をした尻尾を切り裂くと、キマイラの断末魔の悲鳴が響き渡り、やがて尻尾と切り離された胴体は倒れ込む。残された尻尾の方も最初のうちは痙攣していたが、やがて完全に動かなくなった。
全ての頭を失った事でキマイラの生命活動が停止したのを確認すると、ネコミンに肩を貸して貰ってティナも駆け寄り、全員が集まる。正に辛勝という言葉が相応しく、この場に存在する誰か一人でも欠けていたらキマイラには勝てなかっただろう。
「ふうっ……寿命が縮みましたよ」
「よくやったリリス……しかし、あの薬でこれほどの巨体の化物の動きを鈍くさせるとは、いったいどれほど強力な毒薬だったんだあれは……」
「身体に悪い物を片っ端から集めた後、それらを一つずつ研究して作り出した薬ですからね」
「そんな物を飲んでハンゾウはよく無事だったな……副作用はないんだろうな」
「そんな事よりもまだ事態は解決していませんよ。他の牙竜の方はレイナさんが何とかしてくれてますけど、私達も急いで合流しないといけません。もうすぐ雷龍が押し寄せるんですよ?」
リリスは上空を見上げ得ると、既に黒雲は王都の上空付近にまで接近しており、あまり時間は残されていないのは確かだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます