第629話 キマイラの本体

ネコミンの過剰に送り込まれた魔力によって山羊の頭が弾け飛び、残されたのは獅子の頭だけであった。チイはフラガラッハを振りかざすと、獅子の頭に目掛けて振り下ろす。



「これで終わりだぁあああっ!!」

「ッ――!?」



獅子の額にフラガラッハの刃が突き刺さり、脳内まで刃が到達すると、3つの頭を斬られ、弾かれ、刺されたキマイラの胴体が立ち止まり、やがてゆっくりと地面に倒れ込む。


リル、チイ、ネコミンの3人はキマイラの胴体から降りると、自分達だけでこれほどの化物を倒したという事実が信じられず、互いに顔を見合わせて笑みを浮かべる。しかし、ここで3つの頭を失ったはずのキマイラに異変が生じ始めた。



「アガァッ……アアアアッ!!」

「な、何だと!?」

「馬鹿な、まだ生きているのか!?」

「……しぶとすぎる」



チイが聖剣で額を串刺しにした獅子の頭から咆哮が響き渡り、キマイラの巨体が再び立ち上がる。その光景を見てリル達は戦闘態勢に戻ろうとするが、ここでキマイラの尻尾が震え始め、やがて蛇の尾の形をしていた尻尾の先端部が変化すると、本物の蛇の頭へと変化した。



「シャアアアッ!!」

「なっ……尻尾も蛇だと!?」

「まさか、こいつが本体なのか!?」

「信じられない……本当に化物」



キマイラに生えていた尻尾の正体も大蛇だと判明し、3つの頭を失いながらもキマイラは活動できた理由は尻尾の蛇の頭が残されているせいだと判明する。しかもキマイラは背中に生えていた翼を動かし始め、上空へと飛翔する。


空に逃げられればリル達では攻撃手段は存在せず、正体を現した蛇の頭は地上の様子を伺うと、ある程度の高度まで上昇すると飛ぶのを止め、地上へ向けて降下した。



「シャアアアッ!!」

「やばい、逃げるんだ!?」

「私達を踏みつぶす気か!!」

「話してる場合じゃない!!」



3人はその場を離れると、直後にキマイラの巨体が上空から地上へと衝突し、危うくリル達は押しつぶされる所だった。どうにか回避には成功したが、キマイラの落下の衝撃によって建物の残骸は吹き飛び、地面が大きく凹む。


どうにか避ける事には成功した3人だったが、離れる際に3人とも地面に倒れてしまい、その上にキマイラが建物の残骸を押し潰した時に跳んできた破片が降り注ぐ。誰も致命傷は受けていないが、それでも残骸の破片を浴びた事で苦痛の表情を浮かべる。



「くっ……大丈夫か、二人とも」

「は、はい……」

「……ぎりぎり生きてる」

「シャアアッ……!!」



倒れている3人が生きている事を把握すると、キマイラは再び背中の翼を動かして上空へと飛翔する。弱っている3人を自らの頭で止めを刺さず、安全で確実に倒すためにもう一度落下攻撃を行おうとするキマイラの姿を見てリル達は冷や汗を流す。もう一度あの攻撃を受けたら今度こそ死んでしまうかもしれない。



「チイ、ネコミン……まだ動けるか?」

「だ、大丈夫です……」

「……動けなくても動くしかない」

「その通りだ……来るぞ!!」

「シャアアアアッ!!」



再び巨体を落下させて地上へ突っ込んできたキマイラに対して3人は身を屈めると、地上に激しい衝撃が広がり、3人の身体が吹き飛ばされる。今度は落下地点に近かったせいで3人とも身体を飛ばされ、離れた場所へ倒れ込む。



「ぐはっ!?」

「うあっ!?」

「あうっ!?」



地面に叩きつけられた3人はあまりの激痛に身もだえるが、そんな3人を見てキマイラは再び翼を羽ばたかせ、3度目の落下攻撃の準備を行う。もう3人も碌に動ける状態ではないにも関わらず、安全策を講じて空から押し潰そうとするキマイラの慎重さにリルは悪態を吐く。



「くそっ……でかい図体をしているくせに、臆病者めっ……!!」

「リル様、御逃げ下さい……」

「待ってて二人とも……すぐに回復魔法をかける」



ネコミンは倒れている二人の元へ這いより、回復魔法で二人の怪我を治そうとする。だが、彼女が二人の元に辿り着く前にキマイラは上空へ移動すると、今度は確実に3人を下敷きにするために位置を確認すると、咆哮を放ちながら落下する。




――シャアアアアッ!!




上空から聞こえてきた大蛇の鳴き声を耳にした3人は反射的に目を瞑ってしまうが、ここで別方向から強烈な衝撃波が放たれ、3人の元に落下しそうだったキマイラの巨体を吹き飛ばす。


キマイラは落下の際中に地上の方角から放たれた衝撃波を受けて悲鳴を上げながら吹き飛び、3人から離れた場所に倒れ込む。その光景を見てリル達は驚くと、やがて聞きなれた足音が鳴り響き、シロに乗り込んだティナとクロに乗り込んだリリスが現れる。



「皆さん、ご無事ですか!?」

「何ですかあの化物!!研究者としてはちょっと興味が注がれますが、いったいどういう状況ですか!?」

「き、来てくれたのか……助かったよ」



二人が到着するとリルは安堵するが、あまり喜んでばかりはいられず、とりあえずは彼女達の治療のためにリリスは上級回復薬を取り出す。

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