第628話 キマイラVS銀狼隊

「ですがリル様、奴を倒すといってもどうするのですか?奴の力は牙竜を上回ります」

「その通りだ。正面から挑んでも勝ち目はない、かといって作戦を立てる時間もない。ならば……」

「ならば?」

「奇襲を仕掛けて奴の3つの頭を切り落とす……どんな生物であろうと、頭を切り落とせば死ぬ」



リルはムラマサに視線を向け、チイも自分が持っているフラガラッハに視線を向ける。一方でネコミンは鉤爪を取り出し、装着を行う。彼女のエクスカリバーはレイナに渡したため、手元には存在しない。


この中でキマイラに対抗できる力を持つのはチイで間違いない。彼女のフラガラッハは所有者の攻撃力を増大化させる能力を持ち合わせ、隙を着けばキマイラであろうと損傷を与える事は難しくはない。リルの所有する妖刀も最大限に力を発揮させればキマイラにも通じるが、問題はネコミンであった。



「ネコミン、君は離れた場所で様子を伺ってくれ。僕達が怪我を負った時、助けてくれないか?」

「……駄目、二人だけに危険な真似はさせられない」

「何を言ってるんだ、私達だって死ぬつもりはない。だが、万が一を考えてだな……」

「敵の頭は3つ……そしてここにいるのも3人、なら1人当たり1つの頭を斬れば勝ち」



ネコミンの言葉にリルとチイは驚き、確かに理論上では彼女のいう事は間違いではない。しかし、聖剣も妖刀も所持していないネコミンではいくらレベルが上がったといってもキマイラと戦うには分が悪い。そもそも彼女は治癒魔導士であるため、戦闘に特化した能力は持ち合わせていない。



「ネコミン、気持ちは分かるが相手が悪すぎる、君がどうにか出来る相手じゃない」

「そうだぞ、私達の間柄で気を遣う必要はない。お前はお前のできる事を……」

「私も戦闘に備えて新しい技を身に付けた。絶対に足手まといにはならない」



どうにかネコミンに考え直すようにリルとチイは説得しようとするが、彼女の意思は硬く、譲るつもりはなかった。こういう時のネコミンは普段の彼女からは考えられない程に頑固なため、仕方なく二人は折れた。



「はあっ……しょうがない、なら3人で行こう」

「昔を思い出すな……今思えば、いつも私達は無茶な事ばかりをしていましたね」

「銀狼隊の力、あの化物に思い知らせる」



3人は拳を構えるとお互いに重ね合わせ、無言で頷く。その後、即座に3人はキマイラの後を追うと、全員が別々に行動を開始する。


建物を破壊するキマイラの右側へチイは移動し、ネコミンは左側へと回り込む。最後にリルはキマイラの背後へと向かい、3人はお互いの合図も無しに行動を開始した。



「こっちだ!!私はまだ生きているぞ!!」

「ガアッ!?」

「メエッ!?」

「シャアアッ!!」



リルの言葉を聞いてキマイラの3つの頭が振り向くと、即座に蛇の頭が伸びてリルの元へと迫る。自分に迫りくる大蛇の顔に対してリルはムラマサを構えると、大蛇が顎を開いて彼女を飲み込もうとした瞬間、リルは跳躍を行う。



「行くぞっ!!」

「にゃんっ!!」



チイとネコミンも同時に動き出し、若干力の抜ける掛け声を上げながらもネコミンは跳躍するとキマイラの背中へと向かう。それに対してキマイラは山羊の顔を向け、鳴き声を放とうとした。



「メエエッ……!!」

「させない!!」



山羊が奇声を発しようとした瞬間、咄嗟にネコミンは左手に装着していた鉤爪を放り投げ、口元へ向けて投げ込む。山羊の頭を放たれた鉤爪が口の中へ入り、舌に刺さって悲鳴を上げる。


奇声を封じ込める事に成功したネコミンはキマイラの背中に飛びつくと、チイも同時にキマイラの背中へと乗り込む。その一方でリルは大蛇の頭の畝に乗り込むと、妖刀ムラマサを振りかざす。



「兜断ち!!」

「シャアアアアッ!?」

「ガアアッ!?」

「ッ……!?」



大蛇の首の部分に血飛沫が舞い上がり、体重をの乗せて勢いよく振り下ろしたリルの一撃によって首筋に刃が食い込む。完全な切断には至らなかったが、リルは力を込めて刃を押し込む。



「ネコミン、チイ!!」

「はいっ!!」

「任せてっ……とっておき、喰らえっ!!」

「ヴメェエッ!?」



喉に鉤爪が引っかかって上手く喋れない山羊の頭に向けてネコミンはリリスの上級回復薬を取り出し、頭に振りかける。更に彼女は両手を押し付けると、全力で回復魔法を発動させた。



「どんな良薬でも飲み過ぎれば身体を壊す……ヒーリング!!」

「ッ――!?」



ネコミンが回復魔法を発動させた瞬間、山羊の頭全体が光り輝き、先ほど浴びた上級回復薬も体内にしみ込む。本来、回復魔法は怪我を負った対象に魔力を送り込む事で肉体が持つ回復機能を強めて傷を治す魔法である。


しかし、この時に必要以上に魔力を注ぎ込んだ場合、風船に空気を送り込み過ぎると破裂するように体内で魔力が暴走し、やがては内側から肉体を崩壊させる。しかも上級回復薬の効果も重なって山羊の頭に尋常ではない魔力が流れ込み、やがて山羊の頭は膨れ上がっていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る