第627話 合成生物キマイラ

瓦礫の中から姿を現したのは獅子と山羊と蛇の頭を生やし、背中には蝙蝠のような翼を生やしていた。胴体は獅子ではあるが、尻尾は蛇の物だった。その異形な姿の怪物を見てリルとチイは唖然とするが、ここで彼女はヒトノ帝国の研究室にて遭遇した魔物を思い出す。



「まさか、合成生物か……!?」

「という事は……こいつがあの大臣が告げていたキマイラか!?」



城を脱出する際、捕縛した大臣を連れていた時に二人は自分達が倒した合成生物以外にもう1体の合成生物が存在するという話を聞いていた。その合成生物は魔王軍のジョカの手に渡ったという話も聞いていたが、彼女達が倒した合成生物とは比べ物にならないほどの大きさと迫力を誇る。


大臣は名前を「キマイラ」と名付け、彼の実験生物の中でも最高傑作を誇るという。その最高傑作を魔物使いのリディアが引き取り、彼女の力で育て上げたのがこの「キマイラ」だった。



「ガァアアアッ!!」

「メェエエエエッ!!」

「シャアアッ!!」

「くっ!?気をつけろ、チイ!!」

「は、はいっ!!」



3つの頭は同時に別々の鳴き声を放ち、上半身を浮き上がらせると、地上へ向けて両前脚を叩き込む。その結果、地面に亀裂が走って強烈な振動が襲い掛かる。リルとチイはそれを見ただけで牙竜を越える力を持った存在だと悟る。



「シャアアアッ!!」

「うわっ!?」

「避けろっ!!」



キマイラの蛇の頭の部分が伸びると、チイへと向けて接近する。想像以上に蛇の頭は伸びるらしく、咄嗟にリルはチイを突き飛ばして回避する事に成功した。だが、それを見ていた山羊の頭がは口を開くと、奇声を発する。



「メェエエエッ!!」

「うあっ……!?」

「な、何だ、この鳴き声は……!?」



山羊が発した鳴き声を聞いた瞬間にチイとリルは視界がぶれはじめ、膝を着く。まるで超音波でも受けたかのように感覚が麻痺していく。その様子を見たキマイラは今度は獅子の頭が鳴き声を出しながら前脚を振り払う。



「ガアアッ!!」

「くぅっ!?」

「うわぁっ!?」



山羊の発した奇声よって感覚が乱されたリルとチイは避ける事が出来ず、二人は剣を構えて防ごうとしたが牙竜を越える腕力の攻撃を受け切れるはずがなく、吹き飛ばされてしまう。


前脚で殴り飛ばされたリルとチイは近くの建物のまで吹き飛び、二人は壁へと叩きつけられ、血反吐を吐きながら倒れ込む。圧倒的な一撃によって二人はあちこちの骨が折れてしまい、まともに動く事も出来なくなる。その様子を見てキマイラは興味を失せた様に周囲の建物の破壊を始めた。



「ガアアアアッ!!」

「メエエッ!!」

「シャアアッ!!」



キマイラは3つの頭から鳴き声を放ち、次々と建物を破壊していく。その光景を目にしたリルはどうにかリリスから受け取った上級回復薬を取り出し、口に含もうとする。



(な、何とかしなければ……!!)



このままキマイラを放置すれば建物は破壊され、大勢の人間の住む場所を失う。それだけならばまだしも、避難が遅れた民衆や救助中の兵士が犠牲になるかもしれず、彼女はどうにかキマイラを止めるために立ち上がろうとした。



「チイ、生きているか……しっかりしろ、起きるんだ!!」

「ううっ……」



リリス特製の上級回復薬でどうにか回復を果たしたリルは起き上がると、チイに話しかける。チイは完全に意識を失い、しかも最悪な事に壁に叩きつけられた際に彼女が所持していた上級回復薬の薬瓶が壊れてしまっていた。


回復薬を飲ませなければチイは助かる術はなく、リルは慌てて彼女を抱えようとした。そんな時、何者かが倒れているチイに手を差し出すと、白色の光が放たれてチイの全身を覆い込む。



「これは……まさか!?」

「……間に合った」



光の正体が回復魔法だと気づいたリルは驚いた表情で顔を上げると、そこにはネコミンの姿があった。彼女は魔力を集中させてチイの回復を急がせると、やがて10秒ほどでチイの怪我は完治され、意識を取り戻す。



「うっ……こ、ここは?」

「チイ、気がついたかっ!!」

「ふうっ、間に合ってよかった」

「ね、ネコミン!?どうしてここに……いや、そうか。傷を治してくれたのか」



チイは自分が気絶した事を思い出し、身体の怪我が治っている事を知って驚く。ネコミンが回復魔法を扱える事は二人も知っているが、それにしても以前よりも断然に彼女の回復魔法の精度が高くなっている事に驚く。



「ネコミン、何時の間にこれほど回復魔法を使えるようになったんだ?」

「私もレベル上げは真面目にやってた。冒険者としてレイナと行動していた時、割とレベル上げる事が出来た」

「そ、そうだったのか!!助かったぞ、よし……久々の銀狼隊の初期面子が集まったな」



リルはチイとネコミンを振り返り、この二人を迎えた時に銀狼隊を作り出した事を思い出す。3人は建物を破壊するキマイラに視線を向け、どのように対象するのかを考えた。

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