第626話 ジョカの切り札

「くたばれ、ジョカ!!」

「ま、待ちなさい!!私を殺せば牙竜達を止める事は出来ないのよ!?」

「くっ!?」



ジョカは自分が死ねば牙竜を操作する存在がいなくなり、もう牙竜を暴れるのを止める事は出来ない事を告げる。その言葉を聞いてチイは剣を振り下ろすのを躊躇い。そんな彼女にジョカは笑みを浮かべて腰に付けていた小さな壺を放つ。



「やっぱり、あんた馬鹿ね!!」

「うわっ!?」



壺の中身は黄色の粉末が入っており、それを身体に浴びたチイは激しく咳き込む。そんな彼女を見てジョカは勝ち誇った表情を浮かべる。



「魔物を調教するための特製痺れ薬よ!!これでもうあんたは……」

「げほげほっ……このぉっ!!」

「きゃっ!?嘘っ……どうして!?」



チイは激しく咳き込みながらも剣を振り払い、危うくジョカは斬られる所だった。彼女は魔物用の特製の痺れ薬が効かない事に驚くが、そんな彼女にチイは笑みを浮かべた。



「前にも同じように薬を盛られて大変な目にあったからな……麻痺耐性の技能は習得済みだ!!」

「そんなっ……!?」



かつてチイは盗賊の痺れ薬によって窮地に陥った事を思い返し、また同じような状況を想定して彼女はレベルを上昇した後、SPを消費して新しく「麻痺耐性」の技能を習得していた。


他にも毒薬に対抗する技能をいくつか覚えており、彼女は痺れ薬の類の毒薬の耐性を身に付けていた。それでも完全に無効化できるわけではなく、動作は鈍る。



「もう容赦しないぞ、ジョカ!!」

「ひっ!?こ、このっ……」

「おっと、こっちを忘れて貰っては困るな」

「あうっ!?」



ジョカは迫りくるチイに対して新しい毒薬を取り出そうとしたが、そんな彼女の背後からリルが現れると、腕を掴んで床へ押し倒す。チイに気を取られてリルが存在したことを彼女は忘れており、リルに拘束された彼女はチイに刃を向けられた。



「これで終わりだ、魔物使いのジョカ」

「くっ……ひ、卑怯よあんたら!!二人がかりなんて……ぎゃああっ!?」

「悪いが、女の子であろうと悪党には容赦しない」



リルは抵抗しようとしたジョカの腕を容赦なくへし折ると、悲鳴が室内へと上がる。ジョカは必死に助けを求めようとしたが、翼が切り落とされた飛竜は痛みのあまりに動かず、役に立つ様子はない。



「シャアアッ……」

「あ、あんた何をしてんのよ!?助け……いぎぃいっ!?」

「さあ、無駄な抵抗を止めろ……牙竜達を暴れさせるのを止めさせるんだ」

「抵抗するなら今度は腕を切り落とすぞ!!」



右腕を追ったジョカに対してリルは今度は左手の小指をへし折ると、彼女が従える牙竜達に暴れさせるのを止めるように命じさせる。しかし、その言葉に対してジョカは涙を流して首を振った。



「む、無理よ!!あいつらはここまで連れてくるのが精いっぱいだったの、もう私の制御下じゃないわ!!」

「何だと!?では、もう牙竜を止める事は出来ないのか!?」

「ま、待って!!近くにいる奴ならまだ私の声が聞こえるかもしれない、だからお願い……殺さないで!!」

「……本当だな、下手な真似をしたら首を切り落とすぞ」



流石のリルもジョカにだけは許せず、彼女の頭を乱暴に掴んで窓の方へと近寄らせる。チイは倒れている飛竜を警戒し、ジョカが下手な真似をしないように見張りを行う。


窓へと顔を突き出されたジョカは涙を浮かべながら唇を震わせ、ゆっくりと口を開く。そんな彼女にリルは注意していると、ジョカは目を見開いて叫び声を上げる。



「出てきなさい、そして全てを破壊しろ!!何もかも……食らいつくしなさい!!」

「何だと!?」

「リル様!!その女を早く!!」



牙竜を呼び寄せるのではなく、謎の名前を口にしたジョカに対してチイは剣を構え、リルもジョカを手放すと二人は剣を振り抜く。次の瞬間、二人の剣の刃はジョカの急所を突き刺し、派手な血飛沫を放出させて床へと崩れ落ちる。



「あっ、がぁっ……!?」

「……終わりだ、ジョカ」



チイは床に倒れた彼女に呟くと、ジョカは虚ろな瞳を浮かべた状態で倒れ、やがて事切れたのか動かなくなった。そんな彼女を見てリルとチイは黙り込むが、直後に地震のような振動が走る。



「こ、これは!?」

「何が……!?」

「シャアアッ……!?」



建物全体が激しく揺れ動き、飛竜が怯えた表情を浮かべて窓から飛び出す。それを確認したリルとチイは咄嗟に飛竜の尻尾を掴み、自分達も外へと抜け出す。結果としてはそれが功を奏し、二人が抜け出た瞬間に建物は崩壊した。


建物が崩れ落ちる前に飛竜に飛び乗って外へ逃げ出す事に成功したリルとチイは地面に墜落し、どうにか受身を取る。痛みを我慢しながらも二人は崩壊した建物に顔を向けると、そこには瓦礫を押し退けて彼女達が見た事もない魔物が姿を現そうとする場面が視界に映る。

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