第623話 聖剣に選ばれる条件
「私は考えたんです、どうしてリルさんが聖剣を一時的にとはいえ、所有者であるレイナさんから奪えたのか……恐らくですがレイナさんが死にかけていた時、聖剣は新しい所有者としてリルさんを選ぼうとしていたんじゃないでしょうか?」
「聖剣が……!?」
「そ、そんな事があり得るのですか?」
「有り得ます。実際、歴史上でも聖剣の使い手が死亡しても次の新しい使い手が現れる事はよくあります。恐らく、レアさんは死にかけた時に聖剣は新しい所有者としてリルさんが相応しいか定めようとしていた……けれど、レアさんが復活した事で所有権はレアさんの元へと戻り、リルさんは拒否された。つまりはそういう話ですよ」
「なら……聖剣を持っている人が死にかけるだけでも聖剣は他の所有者を探すの?」
「そういう事になりますね、私はこの仮説が正しいかどうかを確かめるため、この人体を強制的に仮死状態に追い込む毒薬と、それを解毒する薬を開発したんです」
リリスは二つの薬瓶を取り出し、片方は最初にハンゾウが飲んだ禍々しい色合いの液体、もう片方は紫色の液体だった。話を聞き終えた者達の大半は話が複雑すぎて理解できなかったが、とりあえずは死にかけたと思われたハンゾウが生きていた事に安堵する。
「よ、良かった……ハンゾウ、本当に死んだかと思ったよ」
「そういう事だったならどうして先に話してくれなかったんだ……本気で心配した私達が馬鹿みたいじゃないか」
「心配させた罰」
「いでででっ……すいません」
「痛いでござるぅっ……でも、拙者たちも本当に上手く行くかどうかは分からなかったのでござる」
ネコミンは心配をかけたリリスとハンゾウの耳を引っ張り、その様子を見てレイナは気が抜けると、自分が未だにハンゾウの聖剣を手にしている事に気付く。
リリスの推論が正しければ本来の所有者であるハンゾウが目を覚ましたのならばレイナは聖剣に拒否されるはずだが、特に変化はない。試しに剣を振っても反応は起きず、不思議に思う。
「あれ?でも、この聖剣はハンゾウのなのに俺は拒否反応が起きないよ」
「ああ、多分ですけどハンゾウが仮死状態の間にレイナさんが新しい聖剣の所有者だと認められちゃったんですね。使い手の記録を上書きしちゃったから、それはもうレイナさんの聖剣ですよ」
「なんと!?拙者の聖剣丸が!!」
「聖剣丸!?そんなダサい名前を付けていたんですか!!というか、これは聖剣フラガラッハですよ!!」
「ううむ、どうにも事情は読み込めんが……とりあえず、もう其の者は大丈夫なのじゃな?では、この者を早々に始末せぬか?」
カレハは倒れているナナシを指差し、レイナによって散々に痛めつけられた彼は立ち上がる気力も倒れたまま動かない。カレハの言葉に全員が頷き、ナナシの元へ向かおうとした時、ここでティナが声を上げる。
「そ、そうだ!?シルは、シルはどうなったのですか!?」
「えっ……そういえばシルがこの剣を運んだんだ!!シル、無事なの!?」
「シル!!何処にいるんだ!!」
「ぷるる~んっ!!(お水を分けてあげるから出てこ~い)」
全員がシルの姿を探すと、ここでレイナは足元に何か違和感を感じ取り、下を覗き込む。すると自分の足元に銀色に光り輝く物体が存在し、それを持ち上げると掌に収まるぐらいの規模にまで縮んだシルだと判明する。
「ぷるりんちょっ……」
「えっ……これ、シル?」
「シル!!ああ、無事で良かった……無事、ですよね?」
「あらら、小さくなってますね。燃えた時に縮んだんでしょうか?」
「ぷるぷるっ(小型化した?)」
元のサイズよりも随分と小さくなってしまったが、ティナはシルを受け取ると涙を流しながらも両手で抱きかかえ、シルの頬に口づけする。シルが聖剣を運んでくれなければレイナはナナシに勝てなかった。
「ありがとう、シル……お前は英雄だよ」
「シル、頑張った!!明日はシルの大好物のかき氷を作ってあげる!!」
「ぷるりんっ(やったぜ)」
「……おい、隊長!!そろそろ奴はどうするんだ?このまま見逃すわけにもいかないだろう?」
シルが無事であった事に皆は喜ぶ中、オウソウは団員と共にライオネルに肩を貸しながらナナシを指差す。全員がオウソウの言葉を聞いてナナシの元へと向かい、様子を伺う。
先ほどのレイナとの戦闘でナナシは身体を動かす事も出来ない程に重傷を負っており、このまま放置しても死ぬのは目に見えていた。そんな彼を前にしてナナシに痛めつけられ、大切な仲間を奪われた者達は睨みつける。
「生きては……いるみたいだね。辛うじてだけど」
「こいつのせいで俺達はこんな目に……」
「我が同胞もこいつの手で何人も……!!」
「ぐうっ……おのれ、虫けら共がっ……!!」
「まだ虚勢を張るだけの元気はありそうですね」
ナナシは自分を見下ろす者達を睨みつけ、特にレイナを見ると牙を剥き出しにする。しかし、その肝心の牙も殆どが砕け散り、もう彼に恐れを抱く者はいない。
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