第622話 仮死薬と復活薬

「馬鹿、な……こんな事、あり得ん……俺が、人間如きに……くそぉおおおおっ!!」

「終わりだ……ナナシ」



絶叫するナナシに対してレイナは剣を振りかざし、刃を振り下ろそうとした。しかし、背後から聞こえてきた声にレイナは振り返る。



「レイナ!!頼む、ハンゾウを……ハンゾウを救ってくれ!!」

「えっ……!?」

「諦めるんだチイ……レイナ君の力でも死人を生き返らせる事は出来ないという話は聞いただろう?」



チイの言葉にレイナは驚いて振り返ると、そこには倒れているハンゾウに縋りつくチイの姿が存在し、他にも悲し気な表情でリルとティナもハンゾウの腕を掴んでいた。その様子を見てレイナは只事ではないと判断し、半死半生のナナシを放置してハンゾウの元へ向かう。



「ハンゾウ!?しっかりしろ、ハンゾウ!!くそっ、どうしてこんな……」

「レイナ君、落ち着いて聞いて欲しい……ハンゾウは君にその聖剣を託すため、命を……」

「えっ……!?」

「あの……少しいいですか?」



レイナはリルの言葉を聞いて自分が握りしめる聖剣に視線を向け、自分がハンゾウに手渡した聖剣である事を知る。リルの話を聞いてどういう事なのかと彼女に尋ねようとした時、ここでリリスが言いにくそうな表情を浮かべて手を上げる。そんな彼女を見てチイは彼女の両肩を掴み上げて怒鳴りつけた。



「リリス!!お前があんな薬を飲ませなければ……」

「ちょ、落ち着いて下さい!!大丈夫です、まだ死んではいませんから!!この薬を飲ませれば蘇生しますから!!」

『……えっ?』



リルの言葉に全員が呆気に取られた表情を浮かべると、彼女は紫色の液体が入った小瓶を取り出す。彼女は薬瓶をハンゾウの口元に近付けると、口の中に飲み込ませる。


その様子をじっと見ていたレイナ達は何が起きるのかとハンゾウの様子を伺うと、徐々に青ざめていたハンゾウの顔色が元へと戻り、やがて眼を開いて息を吹き返す。



「ぶはぁっ!?ま、まずいでござる!!」

「あ、起きた」

『えぇえええええっ!?』



死亡していたと思われたハンゾウは目を覚ますとレイナ達は度肝を抜かれ、その様子を見てリリスは額の汗を拭い、ネコミンはすぐにハンゾウに回復魔法を施す。いったい何が起きたのかとレイナ達は戸惑い、そんな彼等にリリスは一から説明する。



「実はハンゾウに飲ませたのは私が開発した「仮死薬」です。これを飲むと一時的に仮死状態へと陥り、そしてこの「復活薬」を飲み込むと復活を果たします。いや、森の民が持ってきてくれた貴重な薬草のお陰で制作に成功しました」

「ど、どういう事だ?ハンゾウは死んだのではなかったのか?」

「いやいや、死にかけはしたでござるが死んではないでござるよ。死の淵に立たされたのは事実でござるが、拙者はこうして生きているでござる」

「ど、どういう事だ!?いったいお前達は何をしたんだ!?」



状況が理解できずにチイはリリスとハンゾウに問い質すと、彼女達は苦笑いを浮かべながら仮死薬と復活薬を使用した際の経緯を話す。



「実は前に聖剣がレイナ……じゃなくて勇者さんの手元に離れた時、リルさんが聖剣を奪い取ったという話をしましたよね?」

「あ、ああ……確かにそんな事もあったな」

「普通なら聖剣の所有者以外が武器を奪った場合、拒否反応を引き起こします。聖剣の所有者が許可を与える、あるいは武器として使用するという明確な意思を持たなければ聖剣を持っていこうとしてもおかしくはありませんが、ここで気になった事があるんです」



リリスはレイナ(この場合はレア)が最初にリルと遭遇し、暗殺されかけた時、彼女に聖剣を奪われた。その後はリルは聖剣を所持した状態で逃げ出し、途中で拒否反応が起きて聖剣を手放したという話を聞いたときに疑問を抱いたという。


この当時はレアとリルは初対面でしかもレアは殺されかけた。この時にレアは致命傷を負い、本当に死にかけていた。どうにか解析と文字変換の能力を駆使して生き延びる事は出来たが、この時にレイナが自分の傷を治すまでの間に僅かな時間が掛かった。


帝国の城の中でリルは兵士に取り囲まれた時、彼女は手にしていた聖剣を使おうとしたら拒否反応が起きて聖剣を手放してしまった。この時は聖剣を武器として利用しようとしたから本来の所有者ではない彼女は拒否されたと今まで考えられていたが、それならばどうして聖剣を最初に手にしたときにリルは拒否反応を引き起こさなかったのか、それがリリスは疑問だった。


色々と考えた結果、リリスはレイナが死にかけていた時間とリルが聖剣の拒否反応で弾かれた時間を二人の話から想像し、ここである推論を立てる。リルが聖剣を拒否された時、同時刻でレイナが文字変換と解析の能力で肉体を復活させた時間が重なるのではないかと彼女は推理した。

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