第621話 全てはこの聖剣から始まった

(力が……沸き上がる!!)



フラガラッハを手にした瞬間、レイナは今までにないほどに力が沸き上がる感覚が広がった。彼が使用した聖剣の中で最も使用回数が多く、初めて作り出した聖剣。全てはこの聖剣から始まったといっても過言ではない。


ヒトノ帝国にてレイナはフラガラッハを作り出した事から拘束され、城の外へと脱走し、リル達と出会えた。今までに何度も自分を救い続けた聖剣を手にしたレイナはナナシへと振り返る。



「ナナシッ!!」

「勇者ぁっ!!」



氷魔刀を持ち直したナナシは大剣を振りかざし、それに対してレイナもフラガラッハを放つ。魔剣と聖剣の刃が触れ合い、打ち勝ったのはレイナだった。



「うおおおおっ!!」

「ぬあっ!?」



氷魔刀の刃に亀裂が走ると、粉々に砕け散って周囲へと飛び散る。その光景を目にしたナナシは唖然とするが、剣を振り切ったレイナはナナシに視線を向け、右手を柄から手放して拳を握りしめる。



「おぉおおおっ!!」

「がはぁっ!?」



ナナシの腹部に強烈な衝撃が走り、拳が腹にめり込む。体の芯まで響く打撃にナナシは苦悶の表情を浮かべるが、続けて顎に目掛けてレイナは蹴り込む。



「ふんっ!!」

「ぐぶぅっ……!?」



顎を蹴り上げられたナナシの巨体が浮き上がり、牙が砕け散ってしまう。フラガラッハを手にした瞬間にレイナの身体能力が信じられない程に跳ね上がり、彼は地面へと背中から倒れ込む。


口元から血を吐き出し、腹部を殴りつけられた箇所は内出血を起こす。それでもナナシは起き上がろうとするが、そんな彼の視界にフラガラッハを構えたレイナが迫る。



「ここまでだ、ナナシ……お前の負けだ」

「ぐふっ……がぁっ……ああっ……!!」



レイナの言葉にナナシは「ふざけるな」と口にしようとしたが、内臓までやられたのか血反吐を吐き、上手く言葉に出来ない。そんな彼にレイナはフラガラッハを構えると、ナナシは目を見開く。



(ここで死ぬぐらいならば……貴様も道連れだ!!)



に逆らう事になるが、このままでは自分は殺されると判断したナナシは炎魔刀に視線を向け、手を伸ばす。すると、炎魔刀は持ち主のナナシの意思に反応したように刃が地面から引き抜かれ、ナナシに剣を構えるレイナの元へ向かう。


空中で回転しながら炎魔刀はレイナの背後へと迫り、そのまま首を切断するかと思われた時、後方から接近する炎魔刀に気付いたレイナは腕を伸ばすと炎魔刀を掴み取る。



「うざったい!!」

「っ……!?」



炎魔刀を手にしたレイナは上段に振りかざすと、地面へ向けて叩き込む。その結果、あまりの衝撃に炎魔刀に亀裂が走り、氷魔刀と同じく砕け散ってしまう。すると炎魔刀が砕けた影響か、周囲を取り囲んでいた炎の壁が消え去った。


炎の壁が消えた事で周囲に待機していた者達は血塗れのナナシの傍で聖剣を構えるレイナの姿を目撃して驚愕の表情を浮かべる。一方でナナシの方は聖剣も使わず、力任せに地面に叩きつけただけで炎魔刀を破壊したレイナの力に恐怖を抱く。



「ば、かなっ……きさ、まっ……その力は、いったい……!?」

「……聖剣フラガラッハは全ての聖剣の中で唯一所有者の力を引き上げる能力を持つ……攻撃力3倍増の能力を持つ。聞いた事はあるだろう?」

「まさか……!!」



ナナシの言葉にレイナは自分の驚異的な身体能力の強化の理由を話すと、倒れているナナシは信じられない表情を浮かべ、そんな彼にレイナは驚くべき真実を伝えた。



「俺が持っているこの聖剣の場合、攻撃力は3倍増じゃない……9倍増だ。そして俺のレベルは……80を超えている」

「……あり、えんっ……そんな……あるはずがあるかぁっ!!」



これまでにレイナが作り出した聖剣フラガラッハは文字変換の能力にて「攻撃力3倍増」が書き換えらえれて「攻撃力9倍増」へと変化させた。そして現在のレイナのレベルは80を超えていた。


レベル80のレイナが攻撃力9倍増の聖剣フラガラッハを手にしたとき、単純に考えればその力は「レベル720」に至る。ちなみにこの世界のレベルの限界値は「99」だが、そのレベルを遥かに超える力をレイナは手にした。だからこそ魔剣を叩き壊し、人魔であるナナシを圧倒するほどの身体能力を得ることが出来た。今のレイナにとってはナナシは強敵ではなく、はっきりと言ってしまえばゴブリンと大差ない存在に等しい。



「がああああっ!!」

「レイナ君!?」

「レイナ!?」

「レイナさん!?」



ナナシはレイナの言葉が信じられず、重傷の身でありながらも身体を起き上げ、レイナへの身体に抱き着き、折れた牙で首筋に噛みつく。例え折れていようと狼男であるナナシの咬筋力ならば仮にレベル99の人間だろうと首筋を引き千切る程度の事は出来た。


だが、噛みついた瞬間にナナシの顔色は変わり、牙がレイナの身体には突き刺さらない。攻撃力が上昇するという事はレイナの筋力も強化する事を意味しており、仮にナナシが万全の状態でもレイナの首を噛み切る事は出来なかった。



「……終わりだ、ナナシ」

「あがぁっ!?」



力任せにレイナはナナシを引き剥がすと、虚弱のはずの人間に自分が力で負けるという事実にナナシは信じられず、必死に抵抗しようとした。しかし、今のレイナとナナシでは大人と子供以上の力の差が存在し、抵抗も空しくナナシは突き飛ばされる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る